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【日本の議論】海賊版サイト対策の行方 「違法化範囲は限定を」「議論は性悪説前提で」

海賊版サイトの違法ダウンロード規制の在り方をめぐって議論した文化庁の有識者検討会の初会合=昨年11月
海賊版サイトの違法ダウンロード規制の在り方をめぐって議論した文化庁の有識者検討会の初会合=昨年11月

 著者らの許可なく、漫画作品などをインターネット上で公開する「海賊版サイト」対策に関し、文化庁の有識者検討会が、軽微なダウンロード(DL)を違法としないことなどを柱とする報告書をまとめた。同庁は通常国会への著作権法改正案提出を目指すが、規制対象をめぐる意見の相違は残る。検討会のメンバーだったNPO法人「うぐいすリボン」理事の荻野幸太郎氏とコンテンツ海外流通促進機構(CODA)代表理事の後藤健郎氏に聞いた。

荻野氏「違法化範囲は限定を」

 --検討会での議論を終えて

 「全体的にアンバランスだったと感じている。権利者側の人たちは漫画のような商品を著作物として考えているようだが、規制対象が著作物全般になると何でも含まれることになる。例えば、会社や団体で作成された資料や、公文書でも場合によっては著作権が主張されることがある。広い範囲の問題を議論するという意識が十分共有されていなかったのではないか」

 --二次創作を規制の対象外にするなど配慮もあったが

 「配慮された部分も局所的だったと思う。クリエーター活動に対する対応はかなり行われたが、公益的な問題が解決されずに残った」

 --公益的な問題とは何か

 「オンブズマン活動や調査報道、消費者保護活動などへの影響が考えられる。例えば、ある組織の不正を明らかにするため、組織の許可なくネットに上げられた内部資料を、ダウンロードしたら違法になる恐れがある。これまで不正告発者が訴訟を起こされることがあったが、問題に興味を持って情報にアクセスしようとする受信者を脅す手段を、不正組織に与えることにつながりかねない」

 --検討会では、規制対象を「著作権者の利益を不当に害する場合」に限定するかで意見が割れた。荻野さんは限定に賛成だったが、その理由は何か

 「例えば、政治家のブログに、何か重大な決断をほのめかすように、許可なく歌詞が丸ごと貼りつけてあったとする。この場合、政治に興味を持つ国民が政治家の投稿をダウンロードしたら、違法になる恐れがある。検討会では『例外的だ』との指摘があったが、例外的な行為を守るためにはこういった抽象的な限定が必要だと思う」

 --一般国民がネットで情報収集する際の懸念はあるのか

 「著作物をネットに上げる側は許可を取るなど対策を取ることができるが、受信する側はいや応なく巻き込まれる」

 --マスメディアの報道にも問題があるということだが

 「ネットでの情報収集を萎縮させ、社会的議論を阻害する恐れがあることがあまり伝えられていない。メディア自身の著作権の問題が絡むと、検証しないというのではメディア不信を招く懸念がある」

 --今後は国会などで議論が行われるが

 「何が問題で、何を防ごうとしているのかを押さえないといけない。言論の自由、知る権利などを守るため、なんでもかんでも網を広げるのではなく、違法化の範囲を狭くする原則に立ち返って議論してほしい」  (森本昌彦)

     

 おぎの・こうたろう 昭和55年、静岡県生まれ。静岡大大学院修士課程修了。ふじのくにNPO活動センター長などを経て、「表現の自由」擁護を目的とするNPO法人「うぐいすリボン」の理事を務める。「公共ガバナンス論」(共著、晃洋書房)などの著書がある。

後藤氏「性悪説前提の議論必要」

 --検討会での一連の議論を振り返ってどう思うか

 「無事に報告書がまとまってよかった。本来なら昨年通常国会に提出されるはずだった著作権法改正案が見送られ、海賊版対策を行うCODAとしては残念に思っていたからだ。ただ、昨年の国の当初案は国民の萎縮の懸念を招いたのも事実だ。今回はそのあたりの懸念が払拭できており、皆さんの英知がまとめられた結果だと思う」

 --規制対象を「著作権者の利益を不当に害する場合」に限定するかで意見が割れ、後藤さんは限定に反対だった

 「今回は(出版社など)権利者側も限定要件を受け入れたが、これ以上要件を課すことには反対だ。海賊版業者が『不当に害さなければ何をしてもいいんだ』と悪用して喧伝(けんでん)する可能性がある。そうすると実効性が失われ、『ザル法』になってしまう。海賊版業者は“抜け道”を探すのがうまい。性悪説に基づいて議論する必要がある」

 --際立って悪質だった海賊版サイト「漫画村」が一昨年に閉鎖。その後の現状は

 「CODAが著作権侵害で削除要請する件数は1カ月当たり4万件ほど。状況は以前と変わっていない。内容はむしろ悪質化し、大規模になっている。匿名性や秘匿性が売りのサービスが世界で急激に育ちつつあり、官民双方の迅速な対処が必要だ」

 --なぜ早急な対策が必要なのか

 「今春から商用化が始まる第5世代(5G)移動通信システムを受け、通信速度が従来の約100倍になる。国境を超えた海賊版のやりとりも飛躍的に増える危険性が高い。対処には国際的な連携・執行が重要だが、著作権侵害の場合は強行犯や日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の事件などと比べ、優先度が下がるのが実情だ。ただ、昨年には国際的連携により、漫画村の元運営者がフィリピンで身柄を拘束された。実績ができてよかった」

 --議論は今後国会に移る

 「いかにこの問題が根深く、国際的な問題が潜んでいるのかを深掘りしてほしい。若年層に対する影響の大きさも踏まえて議論していただきたい」

 --将来的な希望は

 「日本が主体的に国際的なリーダーシップを取ってほしい。現在大きな被害を受けているのは、日本発の漫画・アニメだ。世界的影響力のある文化を発信できる国は、他に米英など数少ない。コンテンツ保護を強く主張するのは、世界でも米国以外なかなかない。だからこそ日本が国際世論をリードし、発信するべきだ」 

(本間英士)

     

 ごとう・たけろう 昭和37年、神奈川県生まれ。60年から日本ビデオ協会(現日本映像ソフト協会)に勤務。不正商品対策協議会事務局長、文化審議会専門委員などを歴任し、平成29年から一般社団法人「コンテンツ海外流通促進機構」(CODA)代表理事。

 【記者の目】欠けるネットユーザーの視点

 今回の一連の議論をみていると、気がかりな点がある。インターネット利用者側からの視点が少なかったことだ。

 文化庁の有識者検討会には、知的財産法や刑法の専門家、弁護士、被害当事者ともいえる漫画家、出版社、消費者団体のメンバーらが名を連ねた。

 しかし、この問題が重要なのは、規制対象をすべての著作物に広げることで、一般国民の生活に影響を及ぼすためだ。意見募集やアンケートは行われた。ただ、検討会でもユーザー目線、とりわけネットに慣れ親しんでいる若者がどんな使い方をしているかをベースに、もっと話し合う必要があったのではないか。

 今後は国会で議論が続く。この問題で最も影響を受けるのは、われわれの子供たちだ。未来に禍根を残さないよう、利用者の立場を考慮して意見を戦わせてほしい。  (森本昌彦)

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