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「過激化は若者でなく中高年」 『ネットは社会を分断しない』著者2人に聞く

田中辰雄慶応大教授(左)と富士通総研経済研究所の浜屋敏研究主幹
田中辰雄慶応大教授(左)と富士通総研経済研究所の浜屋敏研究主幹

 左右の過激な意見や対立者への罵倒が日夜飛び交うインターネット。トランプ米大統領当選や英国の欧州連合(EU)離脱など、主要国で世論が両極に分かれる「分断」現象が問題になる中、その主因に挙げられがちだ。だが、そうした印象を大規模調査による実証分析で否定し、政治的過激化は若者でなく中高年にみられるなどの意外な実態に迫った『ネットは社会を分断しない』(KADOKAWA)が話題になっている。(文化部 磨井慎吾)

 同書は田中辰雄・慶応大教授と浜屋敏・富士通総研経済研究所研究主幹の共著。ネットが世論形成にもたらす影響については従来、自分がすでに持っている政治的・社会的な意見に合致した情報を選んで接する「選択的接触」や、持論に沿う情報ばかりに触れた結果として意見の偏りが強化される「エコーチェンバー(残響部屋)現象」など、社会の分断を強める作用が指摘されてきた。

 だとすれば、ネットを利用する人ほど分極化が進み、政治的に過激化していることになる。この仮説を検証するため、著者2人は平成29~30年、国内の10万人に対して政治意識とネット利用について尋ねるアンケートを半年の間隔をはさんで2回実施。その結果は「普通に考えられているのとは逆で、ネットは分極化を促進せず、むしろ穏健化をもたらす」(田中教授)という意外なものだった。

目立つヘビーライター

 調査では特に、初回調査と2回目との間にネット利用を開始した人の意見がどう変化したかに注目した。田中教授は「ネットによく接する若い層とそうでない中高年を比べると、分極化しているのは後者。もしネットのせいで分極化が進むのなら逆になるはず。これは米国の研究でも同じ傾向が指摘されている」と解説する。また、ネット利用者が接した論客たちの政治傾向をみると、その約4割が各利用者とは反対の意見の持ち主であることも判明した。「4割も自分と反対の意見に接するというのはかなり多い。新聞やテレビ、雑誌など従来のメディア環境の場合は選択肢の少なさから左右どちらかの媒体しか見ない人は珍しくなく、その利用者がより分極化、過激化しているのは当然」

 また、「選択的接触」で過激化する傾向が唯一みられたのは、以前から極端な政治的意見を持っていた人がネットを始めたケースだったという。「ただ、そうした現象はないわけではないものの、もともと過激な人は数としては少ない。結論としては、ネットを使うと反対側の意見に多く接し、穏健化するといえる」(田中教授)

 だが、ならばなぜネットの議論がとかく荒れ気味になり、左右の極論や罵倒ばかりが目についてしまうのか。田中教授は「過激な意見の人は数はごく少ないが目立つ。たとえばネット上の憲法9条についての書き込みのうちの半分は、わずか0・2~0・3%の特別に熱心な人が行っている」と、強い政治的意見を大量に投稿して議論の場を占有する左右両端の“ヘビーライター”の存在が中間層を萎縮させ、ネット世論を極端なものに見せていると説く。「実際はネット上の議論に参加しないサイレント・マジョリティーは相当な数がいて、両極端の意見に毒されない賢さを持っている。そうした大勢を見なければならない」

サロン型SNSを

 ただ、共著者の浜屋研究主幹は「ネット上の意見は分断が目立つが、それがネットで政治的な書き込みをしない人を含めた社会の分断に影響しているのかというと、現状そうなってはいない。しかし今後も続くかはわからない」と危惧する。田中教授も「現在のネットが議論に適した場でないのは確かで、左右のヘビーライターに占有されずに中間層が発言できる言論空間が必要」と応じ、閲覧は自由だが発言には主宰者の承認が必要な「サロン型SNS(会員制交流サイト)」モデルを提案する。「本当に分極化と過激化が起きていれば大変だが、幸い人々は賢く、意見は中間に集まっている。ならば新しいコミュニケーションの場をうまく設計して作りさえすれば、ネットの議論はこれからだんだん豊かになっていくだろう。次はそういう本を書きたいと思っています」

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