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名物キャバレー舞台に少女の夢と成長描く 高殿円さん「グランドシャトー」が単行本に

「人に恵まれ、機会にも恵まれて…。今回は完全に『書かされている』感じがしました」と話す高殿円さん(酒巻俊介撮影)
「人に恵まれ、機会にも恵まれて…。今回は完全に『書かされている』感じがしました」と話す高殿円さん(酒巻俊介撮影)

 産経新聞に連載された作家、高殿円さんの小説「グランドシャトー」が文芸春秋から刊行された。大阪・京橋の名物キャバレーを舞台に、家庭で居場所を失った少女の夢と成長を明るいタッチで描く。昭和30年代の高度成長期から平成のバブルへと至る時代を背景にした物語には、現代を生きる人々を勇気づけるメッセージが詰まっている。  (文化部 海老沢類)

 「いろんなすてきな出会いがあり、取材のツテもどんどん広がっていった。この話を書いているときは、本当にいいことしかなかったんですよ。出し切った感じがします」と高殿さんは連載を振り返る。

 家族の事情で一人家を出ることになった主人公の少女・ルーは職を転々とした末、大阪の京橋にある有名キャバレー「グランドシャトー」に流れ着く。謎多き伝説のナンバーワンホステス・真珠、都落ちしてきた凄腕の支配人、常連の人気歌手…。個性的な面々に囲まれながら、人を楽しませる才能を生かして店の看板を背負うまでに育つルーだが、時代はやがてテレビの黄金期に。新たな娯楽の台頭や「社用族」離れといった逆風にも押され、ルーのキャバレーも正念場を迎える。

映画「キャバレー」

 舞台のキャバレーは高度経済成長期に発展。時代の流れで衰退していくが、往時には広いフロアでホステスが接客にあたり、ダンスも楽しめる活気あふれる空間だった。高殿さんは米ミュージカル映画の名作「キャバレー」(1972年)が好きで、作家デビューする前から繰り返し見てきたという。

 「踊り続ける日々に価値を見いだしていく人生ですよね。そこにはしんどいけれども続けたいような何かがある。そういう女性にスポットを当てて、ひたすら楽しく書く小説があってもいい」。後にキャバレー文化の始まりが大阪だということも知った。「これはやらないといけない、と。『楽しいことはみぃんな大阪から始まったんや』というフレーズができたとき、物語のテーマもビジョンも明確になったんです」

 店のナンバーワンである真珠にもルーにも支えになる肉親の影は薄い。そんな2人は互いの本名も生い立ちも知らぬまま、長屋で寝食を共にし親交を結ぶ。物語では次第に、さまざまな事情を抱えた人々を包み込んでは再生させていく都会の、血縁など関係ない人間同士の絆の力が前面にせり出してくる。

都会は「最高の森」

「田舎と比べて『冷たい』と否定されがちな都会だけれど、そんなに悪い所なの?って。人がいて街があり、そこでの仕事に需要があるから偽名でも受け入れてもらえる。それは一つの救済。互いの本名を知らなくても生きていける場所って、実は『最高の森』なのでは、って。そういう許容量の広さは絶対に必要なんですよね」

 1杯のインスタントラーメンをおいしそうに描写したり、関西ではおなじみの菓子が随所に登場したり、と時代や土地の記憶を刻む小道具は盛りだくさん。キャバレーの従業員が客に行う細やかな気配りを取り上げる筆には、お仕事小説の名手らしい観察眼が光る。

 読者の反響は大きく、産経新聞の関西文化面に続き東京版でも連載された。

 「私は23歳でプロ(作家)になったんですけれど、ルーみたいにやろうと決めたらやるところがあって、後悔はしないんです」

 作家生活20年の節目となる作品に充実感をにじませた。

【プロフィル】高殿円(たかどの・まどか) 神戸市出身。平成12年に「マグダミリア 三つの星」で角川学園小説大賞奨励賞を受けデビュー。25年に「カミングアウト」でエキナカ書店大賞受賞。「トッカン 特別国税徴収官」「上流階級 富久丸百貨店外商部」などドラマや舞台となった作品も多い。

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