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夫の厳しい意見にも感謝 女優・常盤貴子さんが初エッセー集秘話

初エッセー「まばたきのおもひで」を出した常盤貴子さん(古厩正樹撮影)
初エッセー「まばたきのおもひで」を出した常盤貴子さん(古厩正樹撮影)
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 数多くのドラマや映画、舞台で幅広い役柄をきっちりと演じる一方、どこか謎めいた存在でもある女優の常盤貴子さん。このほど出版された初エッセー集「まばたきのおもひで」(講談社)には、多忙な女優が普段何を考え、何を見て喜怒哀楽のスイッチが入るのか-などがユーモラスにつづられている。日常をマイアートに変える常盤流“まばたきシャッター”がとらえた心象風景とは-。(文化部 花房壮)

失敗して恥かいて…

 「自信があることは自分の中で予測でき、なんとなくビジョンが浮かぶのですが、エッセーは自分に書けるとは思わず、本当に怖かったですね。ただ、せっかくの機会を無駄にするよりは、今のうちにいっぱい恥をかいて、いっぱい勉強して、いつか書けるようになればいいなって…」

 常盤さんは人生初体験である連載を引き受けた際の心境を素直にこう語った。

 本書は平成26年4月から月1回、共同通信加盟の地方紙に連載しているエッセーから選び編集したもの。

 撮影現場で浮かんだことを携帯電話に打ち込み、移動中などでも執筆したという常盤さん。撮影現場での共演者たちとの健康法談議や役柄から抜け出すための独特の“儀式”など興味深い話が盛りだくさんだが、「全然書けないときは締め切りを過ぎても『違うんだよな』と思いながら、(題材が降臨する)“そのとき”を待っていました」

 そんな常盤さんの文章修行を厳しくも温かく見守ったのが夫で演出家の長塚圭史さんだ。本の出版をともに喜んだが「辛辣なご意見を賜り、泣きそうになった」ことも。「身内だから厳しいですよね。『あなたが恥をかくんだよ』『はい、やりなおします』って(笑)。助言はありがたいですけどね」

日常を非日常に

 本書を貫くのは「日常を非日常に」というテーだ。

 「自分の中で、タレントさんのエッセーの多くは自分のことを書いている印象がありますが、自分はなるべくそれをしたくないなと思いまして。私事を通してですが、他の人たちが読んで、ちょっとクスッとできたり、『自分もやってみよう』と思うことを書けたら、と…」

 単調な日常も別の角度から見たり発想を転換したりすれば、無限の面白さや気づき、かけがえのない奇跡の「時」を得ることができる。そのための道具が、誰にでも備わっているカメラに見立てた高感度の“まばたきシャッター”だ。

 そんなアイテムに気づかせてくれたのは、連載のイラストを担当するアーティストの鈴木康広さんとの出会いだった。

 「“まばたきシャッター”という言葉は、鈴木さんがもともと使っていて、気づけば私も同じような物の見方をしていたので、使わせてもらいました」

 鈴木さんは、東京湾上空から見た海上をゆく船とその後ろに広がる航跡から着想した「ファスナーの船」などのユニークな作品で知られ、「すごく忙しく、私のエッセーに絵を描いてもらえるような方じゃないんですが…」と常盤さん。

 「私の書いた文章に、まさかの方向から打ち返したり、何度も読み返して、文章の奥の奥にあるものをとらえて絵にしてくださる」

 そう感謝の言葉を口にする常盤さんの見方も自由自在だ。水没した携帯電話の液晶画面に入った亀裂は「流星のような綺麗な線」であり、空想したときに脳内にできる塊を綿菓子のような「空想玉」と命名してみたり、女子会でのストレス発散に至っては「植物の光合成」に匹敵するというのだ。その瞬間瞬間を独自の表現に昇華させる“脳内革命”の過程は、読んでいて心地よさを感じる。

「雨が降れば雨の場面に」

 暗闇の中に温かい光りをみつける-。そんなポジティブな物の見方をするようになったのは、大林宣彦監督の影響もあったという。

 「監督はその場で思いついたことや起きたことには理由なり意味があるんじゃないかととらえていました。映画が完成したときにも『こんな映画になるとは思わなかったね』とどこか楽しんでいました」

 常盤さんもいつしか偶然の出来事を受け入れ、楽しむ余裕を持つようになる。

 「これまでは撮影現場で雨が降ったら『雨待ちしなきゃ』と思っていましたが、最近は『雨のシーンにすればいいじゃん』って思えるようになりました」

 どんな予想外の事態でも受け入れ、そこに埋め込まれた意味を読み取り、自らの発想を豊かにしたり、心を耕したりするための養分として吸収する。ベテランの域に達しつつある女優はさらなる成長と成熟に貪欲なのかもしれない。

 最後に、最近“まばたきシャッター”でとらえた心に残る心象風景を聞いてみた。返ってきたのは「冬の北海道」だった。

 「寒い時期こそ行ってみたいと思って今年、冬の北海道に初めて行きました。夏などに見ていた景色とは違い、全てが美しく見え、『白の反射で私もかわいくみえるんじゃね』って思ったりして(笑)」

 とりわけ印象に残ったのが紋別にある「陽殖園」だった。園主がたった一人で半世紀以上かけ、広大な敷地に池を掘り、道を造り、約800種の木や花を植えて造り上げた庭園で、観光スポットにもなっている。

 「いろんなルートがあり、半日あれば回れますが、熊よけの鈴を腰に付けてとにかく自分のペースでひたすら歩く。そこにある木や花の植え方が、自然のあるがままだったので非常に勉強になり、『この美しさに勝てるものはない』と感じましたね」

 “まばたきシャッター”でかけがえのない一瞬をそっと切り取る旅はまだまだ続く。もちろん、そのシャッターに枚数制限はない。

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