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身内を批判、他社を賞賛 600号迎えた新潮社PR誌「波」の軌跡 

ベストセラーとなったファンタジー作品「十二国記」のイラストが描かれた599号(右)と600号を手にする楠瀬啓之「波」編集長
ベストセラーとなったファンタジー作品「十二国記」のイラストが描かれた599号(右)と600号を手にする楠瀬啓之「波」編集長

 出版大手「新潮社」の新刊書などを紹介する同社発行のPR誌「波」が今年12月号で600号となった。話題の本や新連載作品の紹介にとどまらず、ときには自社本を批判したり、他社本を躊躇(ちゅうちょ)なく取り上げたりするなどその“懐の深さ”が読書好きを魅了し続けている。自らもPR誌好きだという同社の楠瀬啓之「波」編集長に編集方針や今後の構想などを聞いた。 (文化部 花房壮)

記念号飾る筒井作品

 「600号記念には、アメリカの『ニューヨーカー』などの雑誌の記念号がやるような、大作家の特別な読み物を持ってきたかったんですよ。その意味で、願いがかなった」

 28年から「波」編集長を務める楠瀬さんは、作家・筒井康隆さんの短編「南蛮狭隘族」が巻頭を飾った黄色い表紙の600号を手にしながら、そう口にした。

 筒井さんの「南蛮狭隘族」は、74年前に終わった先の大戦の戦地だけでなく、空襲などにより銃後で亡くなった人々の亡霊の口をかりて、戦争の不条理と戦後の日本社会のありようを、戦前生まれの筒井さんの目を通して総括した。

 現在も筒井さんを担当する楠瀬さんによると、筒井さんがSFの世界ではなく、リアルな戦争について書くのは初めてだといい、「記念号にふさわしい特別感が出た」と話す。

 中学生の頃から『波』を愛読し、新潮社入社の際に「波」編集を希望したという楠瀬さん。「筒井さんは1980年代に『波』によく書いていた作家の一人。その筒井さんが記念号で書くことは、僕にとっても感慨深い」

 この号にはそのほか、藤原正彦さん、壇ふみさん、阿川佐和子さんによる座談会「文士の子どもの被害者の会」、「波」連載から生まれたベストセラーで多くの賞を総なめした「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の著者、コラムニストのブレイディみかこさんらによる座談会など、読書好きにはたまらないラインアップが続く。

自社本批判も辞さず

 「波」が創刊されたのは昭和42年のこと。現在のように月刊化したのは47年からだ。岩波書店の「図書」(13年)、集英社の「青春と読書」(41年)などとともに、PR誌の老舗の一角を占める。

 出版不況のあおりで、PR誌をネット版に移行させたり、廃止したりする動きが相次ぐ中、半世紀を超える「波」の長寿の秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。

 「自社本のPR誌ではあるけれど、あまりPR臭が強くなると、読者に見抜かれ、あきられる。特にPR誌を読む人は目が肥えているので。対談や連載を増やして、とにかく読者が一晩で気楽に読めて、飽きない構成にしようと気をつけている」

 その上で、PR誌の“使命”についてこう言及する。

 「やらなければいけないことは、出版社と読者と作家、書店を一つの共同体としてつなぐこと。もちろん、自社本も紹介するが、良い本であれば他社の本も紹介してきたい」

 実際、「波」では書評欄で他社本を紹介し、楠瀬さんが担当する「あとがき」では、問い合わせを受けた国書刊行会の編集者の取り組みと彼が手がけた本の裏話などがつづられ、これまた本好きを刺激する内容となっている。

 かつて、作家の野坂昭如さんが「波」に書いたコラムで、新潮社発刊のベストセラー「かもめのジョナサン」を「つまらない小説」と批判したことがあるなど、ときにPR誌の型から逸脱した過去もあるが、それも魅力の一つだろう。荒木経惟さんの「センチメンタルな旅・冬の旅」が出た際の篠山紀信さんとの対談は、本音のぶつけ合いで今や語りぐさにもなっている。自画自賛や予定調和の内容だけで、半世紀の長寿を保つことなどできるはずもないのだ。

型にはまらない自由さ

 作家にとっても、PR誌は“思考の実験場”として重宝されていた。

 池波正太郎さんの最晩年の現代小説「原っぱ」は、池波さんの挿絵とともに「波」に連載されていた。「時代小説作家として親しまれていた池波さんは、PR誌を自由に使っていたのではないか」と楠瀬さん。また小説家が「(作品の根底をなす)小説論を連載しながら自らの考えを確認する場所にもなっていた」と話す。

 波は基本128ページで税込み100円。発行部数は4万部強で、そのうち半分程度が定期購読で支えられている。小野不由美さんのベストセラーファンタジー「十二国記」の登場人物のイラストを表紙に掲載した599号は、ファン殺到により在庫切れに。

 「599号を手にした若い人は、そもそもPR誌という存在さえ知らないかもしれないが、これをきっかけにPR誌を読み、さらにいろんな本を読んでもらえるようになればうれしい。なお、『波』は書店で無料でもらえますが、確実に届く年間購読がおすすめです」(楠瀬さん)

 今後は1つのテーマを特集する「別冊・波」にも挑戦してみたいという。

 PR誌という名のリトルマガジン。今後も本好きの好奇心を刺激し、新たな読書の担い手を育むという役割に変わりはない。

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