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【高論卓説】職場の“いじめ”エスカレートさせるのは「同調圧力」 ストレス・マネジメント研究者 舟木彩乃

サラリーマンの通勤風景(写真と本文は関係ありません)
サラリーマンの通勤風景(写真と本文は関係ありません)

 “いじめ”といえば、以前は子供の学校でみられた問題であったが、近年は分別のある大人の世界でも起こる問題である。職場のいじめに関する相談も増えているが、自分が被害者だけでなく加害者にもならないためには、いじめの起こるメカニズムについて知る必要がある。人がいじめをする心理的背景について、Aさんの事例をもとに考えてみたい。

 ヒトを含めてほとんどの動物には、自分の利益を侵害しようとする他者を攻撃して排除する機能が先天的に備わっている。自分の地位を脅かす者を排除するための攻撃、パーソナルスペースなど自分の領域を守るための攻撃などが、これに該当する。

 私のところにカウンセリングにきたAさん(男性・30代後半)は、某企業の企画営業部長に引き抜かれたが、転職して3カ月ほどで出はなをくじかれた人である。同部は長らく役員が兼任で部長を務めていたため、B課長(男性・40代前半)が実質的なトップで権力も握っていた。そのため、いきなり部長で来たAさんは歓迎されず、同部の管理のための情報もなかなかB課長から得られない状態が続いた。困ったAさんは正式に引き継ぎを申し入れたのだが、それをきっかけにB課長の態度が攻撃的になってしまったそうだ。

 会議でAさんが発言すると露骨に嫌な態度をしたり、「A部長を信用していいのか、でも優秀らしいし、給与も高いからね」などといじったりすることも始まった。部の他のメンバーも最初は迷っていたが、やがてB課長に同調するようになり、指示しても堂々と無視したり、部員同士で目配せしたりするようにもなった。Aさんは精神的に追い詰められていったが、いじめで悩んでいることを誰にも相談できなかったそうだ。このような部員たちの心理には「服従の心理」や「同調圧力」といったメカニズムが背景にある。

 「服従の心理」は、常軌を逸した残虐行動を引き起こすことがあり、心理学者のミルグラムが「アイヒマン実験」(ユダヤ人虐殺実行責任者の名前を借りた実験)でそれを実証している。実験に募集された市民が、学習者が課題を間違えると電気ショックを与え、かつ間違えるごとに電圧を上げるよう命令された。すると、ほとんどの市民が、弱っていく学習者に対して「危険・強烈なショック」と書かれたレベルまで電圧を上げ続けたのである。実はその学習者は弱っていく演技をしていただけだが、服従によって残虐になっていくことを示した実験として有名である。

 「同調圧力」は、「アッシュの線分組み合わせ課題」と呼ばれる実験が有名である。人間は自分が間違った選択をしていると気付いていても、周りがみなその選択をしていると、自分の答えに自信が持てなくなり、周りに合わせてしまうというものだ。つまり、「集団への同調」は自分の判断や捉え方にも影響するのである。

 Aさんに対するいじめは、リーダーが言うことは守らざるを得ない、服従しているだけだから責任をとる必要はないという「服従の心理」に、周りに合わせていたほうが安全だという「同調圧力」が加わってエスカレートしたのかもしれない。いじめが起こっている職場では、誰しも知らないうちに加害者となって人を苦しめていることがある。いじめに対して自分が傍観者になっていたら、既に加害者になっている可能性があると自覚すべきだろう。

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 ふなき・あやの ストレス・マネジメント研究者。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院ヒューマン・ケア科学専攻(博士課程)に在籍中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。

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