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作家の「再デビュー」いまや普通? プロ限定の公募賞も

第65回江戸川乱歩賞の贈呈式で、選考委員の京極夏彦さん、湊かなえさんらと写真撮影に応じる受賞者の神護かずみさん(中央)=9月26日、東京都千代田区
第65回江戸川乱歩賞の贈呈式で、選考委員の京極夏彦さん、湊かなえさんらと写真撮影に応じる受賞者の神護かずみさん(中央)=9月26日、東京都千代田区

 一度プロとして世に出た作家が、改めて文学賞に応募してスポットライトを浴びる-。そんな「再デビュー」を飾る作家の姿が最近目立つ。応募資格をプロ作家に限定する異色の小説賞も登場。背景を探ると、出版不況下での作家と出版社の苦境も浮かび上がってくる。   (文化部 海老沢類)

七転八倒

 「乱歩賞作家としては今日がスタートライン。過去の経験を生かして出版業界に新風を吹き込んでいただければ」

 9月下旬、東京都内で開かれた第65回江戸川乱歩賞の贈呈式。主催する日本推理作家協会代表理事の京極夏彦さんがそうエールを送ったのは、同賞を史上最年長で受けた神護(じんご)かずみさん(59)だ。筆歴は20年を超え、著作も5冊あるプロ作家。今回、公募ミステリー賞の最高峰といわれる乱歩賞を射止め、改めて“デビュー”を飾った。

 神護さんは平成8年に『裏平安霊異記』で作家デビューしたものの、本は初版止まり。「ビギナーズラックで出版できたけれど売れないので先が続かない。物を書くのは好きだから七転八倒していました」と振り返る。時代物や伝奇ホラーなどを主に書いて地方の文学賞も受けたが、ヒットには恵まれなかった。

 次第に「大きな賞を取らないと、作家としてやっていけない」という思いが募り、乱歩賞を視野に慣れないミステリーに挑んだ。35年間勤めた化学品メーカーを昨年早期退職し、集中的に執筆したのが受賞作『ノワールをまとう女』(講談社)だった。企業を襲うネット炎上や不買運動などのトラブルを裏で解決する女性が主人公。孤独なヒロインの奮闘に、人工知能や同性パートナーといった今日的な問題が絡み合う。

 神護さんは「自分にとって身近な企業社会から発想を広げていった。ようやくスタート台に立てた気がするので、今後もジャンルを限定せず幅広く書いていきたい」と話す。

正当な評価

 プロ・アマ問わず応募できる乱歩賞では、28年にも純文学系の群像新人文学賞の優秀作に選ばれたこともある佐藤究さんが受賞。佐藤さんは“転身”2作目の『Ank:amirroringape』で、吉川英治文学新人賞と大藪春彦賞を受賞し飛躍を遂げた。

 一方、今年新潮ミステリー大賞奨励賞に選ばれた村木美涼(みすず)さんも29年のアガサ・クリスティー賞の大賞受賞者。エンターテインメント系の公募新人賞では再デビュー組は珍しくない。

 こうしたなか講談社は、応募資格を商業出版経験のある書き手に限定した「リデビュー小説賞」を設立。400作近い応募があり、5月に第1回受賞者6人が発表された。「『もっと多くデビューさせたい』と思うくらい応募作のクオリティーは高かった」と、賞を企画した講談社タイガ編集長の河北壮平さんは語る。

 20~30代の応募も多く、ライトノベル業界が舞台のメタフィクションあり異世界転生ものありと受賞作は多彩。来年1月以降に刊行予定という。河北さんは「出版不況下で、出版社も新人の先の先まで見る余裕がなくなってきている。結果、才能ある作家が十分チャンスを与えられず、正当な評価を受けないまま筆を折ってしまう例も多い。出版社の責任として企画した賞でもある」と話す。

 紙の出版物の推定販売金額は昨年、ピークだった2兆6564億円(平成8年)の半分以下に減少し、文芸書も苦戦が続く。ライトノベルも一時のブームは去り、市場規模は縮小している。一方で、年間の出版点数や新人賞の数は依然多く、実績のない作家が目をひくのは容易ではない。

 文芸評論家の細谷正充さんは、再デビューについて「商業出版経験があるだけに、出版社にとっては安定した作品の質が見込める。書き手も再び賞を取れば箔(はく)が付くし注目される」と双方のメリットを指摘する。その上で「今は作家の数も出版点数も増え、どうしても新人は埋もれがち。生き残る手段として再デビューは増えるのでは」と話す。

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