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【お金は知っている】何の利益にもならないのに…人民解放軍が大学のキャンパスを掃除する理由とは

香港の大学で清掃活動する中国人民解放軍の軍人=16日(AP)
香港の大学で清掃活動する中国人民解放軍の軍人=16日(AP)

 香港の民主化要求運動が激化し、中国が武力鎮圧に乗り出すとの観測が出る中、デモで荒れた香港中文大学のキャンパスに香港駐留の人民解放軍部隊が平服で掃除に乗り出した。習近平党総書記・国家主席は武力介入したところで、北京にとって何の利益にもならないことを自覚しているのだろう。なぜか。

 まず、香港に隣接する深センで待機している軍の大隊を香港に侵攻させることは、毛沢東と周恩来の故事に背く。

 1949年10月、香港の対岸の深センまで攻め込んだ人民解放軍東江縦隊1万2000人に、北京から突如ストップの指令が発せられた。英国と交渉していた周恩来が毛沢東の了承を得て、国境線となっていた幅10メートル程度の深センの渡河を中止させた。英国との合意で中国は香港での貿易や金融で特別扱いされることが保証されたからだ(拙著『人民元・ドル・円』」〈岩波新書〉参照)。以来、毛沢東・周恩来コンビの香港に対する基本路線は「長期打算・充分利用」である。

 1970年代末、最高実力者トウ小平は改革開放路線に踏み切り、外資を積極導入したが、外資の対中進出拠点は香港だった。自由な香港なくして中国の経済発展は不可能だった。

 改革開放前は広大な湿地帯・原野が広がるだけの深センには丸腰の解放軍部隊が惜しげなく投入され、工業開発区として地盤を整備した。1997年7月1日の香港返還のとき、筆者は取材現場に居合わせた。人民解放軍兵士を載せたトラックの列が深夜の闇に溶け込むかのように香港島北側のメーン道路を駆け抜け、危うく写真を撮り損ねるところだった。

 今回、やみくもに香港行政府に「逃亡犯条例」改正を強要したのは、習政権が本土からの資本逃避口をふさぐためだったと、筆者はみる。

 2012年秋に習氏が北京の実権を握って以来、増え続けてきたのは資本逃避である。汚職・不正蓄財の摘発を強化すると資産が香港に移る。人民元を切り下げようとすると、人民元資産は売られ、香港で外貨に換えられる。そして米中貿易戦争が勃発するや、かつてない規模で資本が流出し、止めようがない。資本というのは国内で回ってこそ、経済を成長させる。国外に出てしまえば経済を押し下げる。

 逃亡犯条例は香港に逃亡した「犯人」のみならず隠匿された資産も捕捉する。香港当局に資本逃避を取り締まらせる切実な動機が習氏にはあったはずだ。それが香港の反北京感情を爆発させ、結局改正案撤回に追い込まれた。それでも反北京、民主化運動は高揚したまま収まる気配がない。

 香港を武力鎮圧することはたやすいだろうが、浴びる返り血も尋常ではない。上海金融市場はいまだに規制だらけで、外資は自由な香港拠点を捨て難い。香港が重苦しい共産党統制下に置かれば、本土に流入する資本も激減する。習政権にとって長期打算・充分利用路線を放棄するにはリスクが大きすぎるのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

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