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【日本の議論】激甚化する災害 氾濫エリアに住む覚悟とリスク

台風19号の影響で浸水した二子玉川駅周辺=10月13日、東京都世田谷区(宮崎瑞穂撮影)
台風19号の影響で浸水した二子玉川駅周辺=10月13日、東京都世田谷区(宮崎瑞穂撮影)

 台風19号に伴う大雨は、各地に深刻な被害をもたらした。多摩川流域にある東京都世田谷区の二子玉川地区では、無堤防区間から水があふれて市街地が浸水する事態に陥った。住民の合意形成の難航が堤防整備の遅れを招いており、防災の機能強化と景観維持を両立させる難しさが浮かび上がる。災害が激甚化する時代の防災のあり方について、日本大の福田充教授と東洋大の及川康教授に聞いた。

福田氏「弱者守る街づくりを」

 --二子玉川地区で無堤防区間から水があふれて浸水し、住民に多大な被害をもたらした今回の事態をどう考えるか

 「二子玉川という地区は一般的に『おしゃれ』『セレブ』といったイメージがあり、川が見える景観も含めて街のムードやイメージを大事にしたい気持ちも分かる。しかし、景観やイメージより人の命の方が大事というのがまちづくりの基本。時代はブランドやイメージを大事にする社会から、安全・安心を売りにする『リスク消費社会』に移り変わっている。高齢者や子供など、『災害弱者が安心して暮らせる街』というのも一つの良いイメージ形成につながるはずだ」

 --津波被害を防ぐ防潮堤の建設などでも住民の反対を受けることがある

 「人間は『明日、台風が来る』と聞かされると、『停電したらどうしよう』『浸水したらどこに避難しよう』とは考えても、『自分が死んだらどうなるか』『大けがを負ったら』とは考えない。これは自分で自分を守る『正常性バイアス』と呼ばれるが、この働きを完全に取り除くのは非常に難しい。堤防やダム、地下放水路など、今回の水害ではさまざまな設備が下流域を水害から守ったが、これらも造るときは、『無駄だ』と批判を受けた。対策で至らなかったマイナス面の検証も必要だが、どうやって何を防ぐことができたのかというプラスの側面も検証して、伝えていく必要がある」

 --大規模なハード面の整備をめぐっては多額の費用が必要となる

 「これまでにハードの整備は一段落と考えられていて、災害で亡くなる人の数は昭和と比べて格段に少なくなった。次はさらに死者を減らすため、ハザードマップの読み方を伝えたり、災害の危険性を効果的に伝えたりといった、ソフト面の充実が求められている」

 --台風19号に伴う被害を受け、住民や行政などが考えるべき今後の課題とは何か

 「各地で起こる災害をいかに『自分事』として考えられるかは、自治体やメディアを通じた社会教育以外にない。社会教育の充実で早期避難を可能にし、さらに被害が減らせるはずだ。一方で、今年の台風に象徴されるように、これまでの想定を超え、大規模停電なども同時に引き起こす複合災害が多発し、今後も続く可能性があるとすれば、ハード面も可能な範囲で強化する必要が出てくる。そのためには、住民側もリスクとどう向き合うのか、本格的に議論する必要があるのではないか」

(橋本昌宗)

     

ふくだ・みつる 昭和44年、兵庫県生まれ。東京大大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション。コロンビア大客員研究員などを経て、平成28年から日本大危機管理学部教授。

 及川氏「氾濫エリアに住む覚悟問われる」

 --二子玉川地区では、住民間の合意形成が難航して、堤防の建設が進んでいない区間があった

 「合意形成を軽視してはいけないというのは言うまでもない。景観と防災は、ともすると相反するものだが、双方の要素を正しく理解した上での議論を経て合意形成するのが健全だ。今回は残念ながら防災においての懸念が具現化してしまった。議論する上で重要なのは、住んでいる場所が、氾濫が起きうる場所だという『氾濫原に住む覚悟』だ」

 --「氾濫原に住む覚悟」とは具体的にどういうことを意味するのか

 「川が流れるところに住んでいるという意味では、関東平野も氾濫原になる。こちらが川で、こちらは川じゃないという線引きはできない。覚悟とは心構えを持つという意味もあるが、あきらめるという意味もある。例えば津波のハザードマップを全力で受け止めたら郊外に住まざるを得ず、コンパクトシティーを造ることはできない。そこに住む以上、なんらかのリスクを受け入れ、うまく付き合っていかないといけない。その上で、防災だけで暮らしているわけではないので、暮らしやすさのバランスとして景観などをどう考えていくかを議論していく必要がある」

 --どのような議論をすべきか

 「責任の追及をしがちだが、防災に関しては不毛。誰の責任であろうと、防災はやらないといけない。日本は『行政が災害から守ってくれる』という態度が色濃い。例えば、避難情報が出ないと避難をしないというような、自分の命すらも行政に任せてしまうような状態になっている。今回も、『災害が起きてしまったのは残念だが、今後どうするか』という議論になればいいが、『あの時はこう言ったのに』という責任追及の話になれば、前向きな議論にならない」

 --台風19号で改めて表面化した景観と防災との関係を考える上で、今後は何が課題となってくるか

 「透明な防波堤はない。想定以上の雨が降れば、防波堤があってもあふれることはある。景観か防災かという議論になったときに、正しい理解をした上で議論すべきだ。(景観派と防災派の)それぞれが我慢するのではなく、『堤防を造ったんだから景観が阻害されることはある』と、理解することが必要。分断していく社会もあるが、分断しない社会にすることはできる。覚悟を持って、最善を尽くすことが必要だ」       (大渡美咲)

     

 おいかわ・やすし 昭和48年、北海道生まれ。群馬大大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。同大講師などを経て、平成24年から東洋大理工学部准教授、今年4月に同部教授。専門は災害社会工学。災害に対する住民の意識や行動などについて研究している。

【記者の目】迅速かつ丁寧という難しさ

 住民合意はさまざまな場面で必要となる。道路整備、防犯カメラの設置、カジノ誘致…。一棟のマンションの中ですら、設備の更新をどうするかなど意見の集約が必要になる。

 いずれのケースも住民たちに理解された計画が進められることが望ましい。だが、防災は生命に直結する課題だ。災害が激甚化する中で、誰もが、いつ、どこで被災するか知れない状況に置かれるようになった。

 一部で無堤防状態が続いている二子玉川地区の場合、堤防の整備計画は50年以上前の昭和41年からスタートしている。堤防などの防災インフラは世代を超えて引き継がれる一方で、それがなければリスクもまた次世代に繰り越される。慎重に見極める姿勢が必要ではないだろうか。

 だからといって、生活の場である限り、強硬に整備が進められていいわけはない。迅速かつ丁寧という難しい合意形成が求められている。  (玉崎栄次)

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