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「言葉の違い、創作の原動力に」 越境作家・多和田葉子が語る文学論

母国語や創作手法をめぐり、イタリアの作家、ヘレナ・ヤネチェクさん(右)と対談する多和田葉子さん=3日、東京都千代田区
母国語や創作手法をめぐり、イタリアの作家、ヘレナ・ヤネチェクさん(右)と対談する多和田葉子さん=3日、東京都千代田区

 「モノリンガルな(一言語だけ話す)島国から突然多言語世界に飛び込んでいった。そのショックをエネルギーにして多言語文学を作っていきたいと」。日本に一時帰国したドイツ・ベルリン在住の作家、多和田葉子さん(59)が3日、東京都内で行われた対談イベントに参加し、そんな創作の源泉を語った。

 欧州各国と日本の作家や翻訳者らが交流する第3回ヨーロッパ文芸フェスティバルでの企画。「母国語の多様性」をテーマにイタリアの作家、ヘレナ・ヤネチェクさんと対談した。

 多和田さんは早稲田大卒業後の1982(昭和57)年にドイツへ渡り日独両言語で創作を続ける。『献灯使』の英訳版が昨年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞し、今年は欧州のブックメーカー(賭け屋)のノーベル文学賞受賞者予想にも名前が挙がった。1964年にドイツ・ミュンヘンに生まれ、イタリア語で執筆するヤネチェクさんとは母語の外で表現する「越境作家」という共通項がある。

 ポーランド出身の両親を持つヤネチェクさんは「両親は2人の間ではポーランド語でしゃべっていた。私は小さい頃からイタリア語にもなじみ、学校ではドイツ語を使った」と振り返るように多言語に囲まれて育った。一方の多和田さんは高校の第2外国語でドイツ語に触れたのが最初。まず詩作に励んだドイツ移住当初を振り返り「日本にいないと、小説を書くベースになっていた語りのリズムが失われて…。リズムを共有する人々が周りにいないことでばらばらになった言葉が詩のようになった時期がある」と語った。

 複数の言語を行き来してきた作家同士の話は、「母国語」という響きがまとう固定観念を揺さぶる。

 「日本語もいろんな言語が混ざり重層的な構造になっている。いろんな時代の言葉があり、ヨーロッパの言葉を翻訳したもの、片仮名で書かれた英語といった単語が混ざり、同じ文面に並んでいく。混ざっていない言葉というのはない」。多和田さんはそう話した上で「一応ドイツ語と日本語は文法の上でも言葉の歴史の上でも非常に大きな違いがある。その違いそのものを創作の言動力にするということをやっている」と明かした。

 現代社会への問いかけを潜ませた作品を発表する2人。対談の終盤では、近現代史を作品に多く取り入れるヤネチェクさんと、『献灯使』のように近未来も描く多和田さんとの手法の違いも話題になった。「実際起こった事実の周りに自分のイメージで物語を作り上げる。それが自然」というヤネチェクさんに対し、多和田さんは「現在をしっかりと見つめると自然と未来が見えてきてしまう。『100年後の世界がこうだろう』と予想しているわけじゃない。今の連続として(未来を)書きたかったのです」と話した。  (文化部 海老沢類)

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