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【一聞百見】GPS役たたず、相棒を食べ…生か死か80日間「極夜行」 探検家・ノンフィクション作家、角幡唯介さん(43)

角幡唯介氏の著書「極夜行」。大佛次郎賞などを受賞した
角幡唯介氏の著書「極夜行」。大佛次郎賞などを受賞した
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■相棒であり食料…極限の思考

 「極夜行」はノンフィクションだが「私」が前面に出ている。朝日新聞に5年間勤めたのに、客観性が基本の新聞とは対照的だ。風景も出来事も角幡氏の厚いフィルターを通して描かれ、それが作品独特の深い味わいとなっている。「記者をやめたころは客観的な書き方が格好いいと思っていましたが、変わってきたのです。自分とのかかわりなしに事実はありえないのだから『私』を明示すべきだと。自分の経験や認識は圧倒的に説得力がある。自分にとって、間違いがない事実なのですから」。フェイクニュースが氾濫するいまは、事実の概念が漂流している。自分にとっての事実に徹する作品は、「ノンフィクション」にもたらされた、新しい手法といえるかもしれない。そこに時代との不思議なシンクロを感じさせる。

 作品中、探検で唯一の相棒である犬との抜き差しならない関係も「私」の視点で描かれる。食料などを積んだソリを引かせ、ホッキョクグマが近づいたときにほえて危険を知らせる労働犬として連れて行くが、次第に精神的になくてはならない存在となっていく。角幡氏は人間のように犬に話しかけたり、怒りを爆発させたりする。犬もソリ引きをさぼったり、卑屈な態度を取ったりして飼い主との間合いをはかる。

 両者の関係はホッキョクグマに備蓄食料を奪われ、飢餓に陥る可能性が出てきたときに大きく変わった。万一の場合には、犬を殺して食べようと考え始めるのだ。「犬が食料になりうることを知識として知ってはいても、実際にそうなるとは考えたことがなかった。でも一度でも考えると、最終的に食べればいいと安心感が生まれた。同時に私の命は、犬に依存しているのだと強く思ったのです」

グリーンランドの太陽。極夜の後には強烈な光に見えた(角幡唯介氏提供)
グリーンランドの太陽。極夜の後には強烈な光に見えた(角幡唯介氏提供)
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 鋭利な刃物のように浮かぶ屠殺(とさつ)のイメージが「極夜行」の後半、強い緊張感を与える。オオカミの一部が犬に進化して人間との共生関係になったのはなぜなのか。躊躇(ちゅうちょ)なく食べる牛肉や豚肉と犬の肉は違うのか。机上ではできない身体感覚を伴った思索が、極限状態のなかで頭を駆け巡る。「極夜行の経験はどれも個人的なことだが、中途半端なものではない。私的なことでもどんどん突き詰めていけば普遍性の扉が開かれ、力を持って立ち上がってくると思うのです」

 北極圏といえば地球温暖化が重大なテーマであり、グリーンランドはその象徴的な地であるが、著作のなかではまるで無関心だ。「温暖化と言った途端に社会啓発的なモラルが付随してくることに抵抗があるのです。関連の現象は見ているかもしれませんが、私の内面に影響を与えるものではないから書く対象にはならない。いまの話題ではなくて、時代を経ても変わらないものを書きたい」。誰もが書きそうな定型の価値観には、興味がない。

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