【山本一力の人生相談】かみ合わない夫婦関係
相談
50代の女性。中学3年の息子は成績低迷で高校進学が危ぶまれます。息子も危機感は持っているようですが、成績は上向きません。
一方、夫は何を考えているのか、息子におもちゃや本を買い与えます。まるで息子の勉強の邪魔をしているように私には思えます。息子が自室に行ったあと「ほどほどにして」と伝えると、夫は聞き流すかのように、黙り込みます。
私は息子に中学生らしく、勉強もして、健康に楽しく暮らしてもらいたいと思っています。なのに結局、私一人が息子に小言を言うしかありません。できれば夫と気持ちを合わせ、息子のことを考えたい。自分の考えを語らない夫との関係を改善するには私がどう変わればいいでしょうか。(兵庫県、主婦)
回答
中学生の勉学と親がどう向き合うか。
かみ合わない夫婦の間柄に、どう対処すればいいか。
相談内容はこのふたつと受け止めた。
どうすればいいのか。
答えはきわめてシンプルで、相談者のあなたが変われば片付く。
中学生らしくといわれるが、それはあなたが思い描く中学生像ではないか。
実像は時代差も個人差も多様にある。
それはカミさんが旦那に対して思い描く「旦那らしさ」「父親らしさ」にも通ずることで、標準値などないだろう。
つまりあなたの悩みの根源は、いずれもあなた自身が作り出している。
授かったこどもへの想(おも)いは、父と母とでは深い性差があると思う。
多くの父は授かった男児に対し、通ってきた道だと客観的に評価できる。
ご自分のおなかにて十月十日を共に生き、陣痛を経て出産した赤ん坊は、まさに母が育んだ子である。
いかほど夫婦仲が睦(むつ)まじかろうが、子については分かち合えない領域はあろう。
母が子に抱くひいき目は、ときに夫婦間で、消しようのない障害となる。
そこでひとつ提案したい。
旦那との会話において、ご自身と息子に対するあなたの評価を三割、減ずる。
逆に旦那に向ける辛口の目と評価を、三割増しとしてみる。
こうすることで存外、問題の本質と、掛け値なしに向き合える可能性が生ずる。
もしもご子息が、常にあなたの三割増しの期待を背負わされているとしたら、これは相当なる苦痛、重荷だろう。
旦那は耳を貸さないのではない。
等身大の息子に、いま必要な手を差し伸べているのではなかろうか。
回答者
山本一力 作家。昭和23年生まれ。平成9年「蒼龍」でオール読物新人賞を受賞しデビュー。14年「あかね空」で直木賞受賞。近著に「牛天神 損料屋喜八郎始末控え」(文芸春秋)、「長兵衛天眼帳」(角川書店)。今月中旬に新刊「ジョン・マン7 邂逅(かいこう)編」と文庫本「ジョン・マン5 立志編」(ともに講談社)が発売。
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