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【志らくに読ませたい らく兵の浮世日記】今も変わらない「むかしむかし噺」

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はこの事件をメインに描いているわけではないけども、悲劇に見まわれたシャロン・テートについて、映画というのはこういった追悼の仕方もできるんだと教えてくれる。また、これだけの豪華キャストがそろったのも、その追悼に多くの人たちが賛同したのかなと思った。

 ところが、この映画に関して、ロマン・ポランスキーの現在の妻である女優から苦言が出ているそうだ。夫のポランスキーが味わったつらい経験を、許可なく映画化されたことに納得がいかないらしい。この妻自身は被害の当事者ではないものの、やはり関係者にとっては事件から半世紀たっても「むかしむかし」というわけにはいかないようだ。

 そういえば落語をやっていて、そういう苦情を聞いたことはない。ちゃんと調べればあるのかもしれないが。古典落語の時代設定は、江戸や明治のそれこそ本当に「むかしむかし」の話だ。それに人が殺されるような事件もあまりあつかわない。怪談噺みたいなのはあるけど、番町皿屋敷のお菊さんが「私の話をこんなに面白くして」と訴えて出たという話はあんまり聞かない。新作落語だと最近の世相を取り入れて物語を作ることもあるようだけど、凄惨(せいさん)な事件はなるべくあつかわないだろうし。

 それでも、酔っ払って失敗したり、博打(ばくち)で負けてしまったり、吉原でだまされたり、知ったかぶりで恥をかいたり。人間として生きてれば必ずどこかでぶち当たる壁と、そこでもがく人々が描かれている。それが「むかしむかし」という設定のなかで、多くの人が共有できるように作られている。歴代の名人、師匠、先輩たちがこしらえてくれた土台のすごさ。これが古典芸能なのだなと、一本の映画を見て、あらためて考えた。

 ありがとう。ワンス・アポン・ア・タイム・イン・江戸。

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