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【日本語メモ】「職業不詳」の事故死に思う

 「不詳」の意味を検索すると「くわしくはわからないこと。はっきりしないこと」(デジタル大辞泉)とある。

 小説などで登場人物の説明に「不詳」とあれば、ミステリアスな雰囲気を醸し出す魅力的な言葉にもなるのだが、事件や事故を伝えるニュース記事に使われると、困ったことにうさん臭さばかりが強調されてしまう。

 こんなことを考えてしまったのは、4月下旬に知り合いの男性が犬の散歩中にトラックにはねられて亡くなったからだ。とある地方新聞のニュースサイトには「職業不詳」と記されていた。

 午前3時ごろという発生時刻、既に60代後半で家族と離れて独り暮らしをしていた事情を考えれば、第一報の時点で職業が分からなかったのは仕方のないことだろう。そして、事件・事故の続報が掲載されることは少ない。

 男性は第一線を退いていたものの、映画業界に長く関わり、数年前から自分の名前の頭文字を冠した「M’s インディペンデント(自主製作)映画祭」を定期的に開催し、若手の活動を応援していた。

 映画祭を通して年に2、3回会う程度の関係だったが、毎日のように更新するフェイスブック(FB)を見るのが楽しみだった。

 犬の散歩に1日5~6時間を費やし、畑の隅にある小屋にポニーがつながれた“ララミー牧場”や、黒猫が住み着いた“タンゴ公園”に立ち寄る様子がつづられていた。最近になって調べてみたが、この牧場や公園にとくに名前はついてなかったので、昔のテレビ映画や流行歌から勝手に命名したのに違いない。 

 ポニーと顔を寄せ合いながら自撮りしたり、パンやおにぎりを飼い犬と分け合ったり、日々代わり映えのない内容ではあったが、新しい写真を見るたびにほのぼのとさせられた。そして映画と音楽をこよなく愛し、昔の名作を当時の思い出とともに気まぐれに紹介した投稿は勉強になった。

 現役時代に撮影したと思われる有名俳優とのツーショット写真や、少年時代のモノクロ写真を脈絡なくアップすることはあっても、手掛けていた作品や具体的な仕事内容、自身の生い立ちは語らず仕舞いだった。いつも気になっていたのだが、尋ねる機会もなかった。

 この男性のプロフィルは今も不詳のままだが、無邪気で人懐っこい様子は「職業不詳」という言葉に想起される「うさん臭さ」とは縁遠い人だった。今秋に有志で追悼イベントが計画されていると聞いた。今から楽しみにしている。(浜)

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