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【日本の議論】参院選の年金論争 西沢氏「最低保障の強化が必要」 竹中氏「経済成長で自助環境を」 

7月の参院選で自民、公明両党は改選議席の過半数を上回った。ただ、論戦は今ひとつ盛り上がりに欠けた(佐藤徳昭撮影)
7月の参院選で自民、公明両党は改選議席の過半数を上回った。ただ、論戦は今ひとつ盛り上がりに欠けた(佐藤徳昭撮影)

 7月の参院選では、老後資金が年金以外で2000万円必要だとした金融庁金融審議会の報告書などを受け、年金や老後不安が争点になった。果たして与野党の議論は深まったのか。西沢和彦日本総合研究所主席研究員と竹中平蔵東洋大教授に政治の役割や取り組むべき課題などについて聞いた。

  西沢氏「最低保障の強化が必要」

 --参院選は年金問題が争点になった

 「与党は(少子高齢化に応じて年金の給付水準を抑える)マクロ経済スライドがあるから年金は安心だと言ったが、それは年金を削っていくから政府としては財政的に安心だということ。年金を受け取る側にしてみれば年金が減っていくわけで不安だ。一方、野党は受給者側から年金が減ると責め立てた。与野党が支払い側、受け取り側からものを言っているので議論はかみ合わなかった」

 --問題とすべきなのは

 「高齢化率が高まる中、支え手が減り、受け取り手が増えるので年金の給付抑制はやむを得ない。ただ、年金が少ない人まで抑制していいのかというと話は別だ。基礎年金は2040年代までマクロ経済スライドが効いて6万円台半ばの給付が現在価値で4万円台まで低下する。基礎年金しかない人をどうするのかという問題が残る」

 --経済成長すればいいのか

 「一定程度の実質賃金上昇率と物価上昇率があればマクロ経済スライドが効くので年金財政は安定に向かうが、給付水準をカットするので基礎年金だけの人や低年金の人は生活が苦しくなる」

 --どのような改革が必要か

 「金融庁の報告書に出てくる年金が20万円程度あるようなモデル夫婦世帯は自助努力でいい。だが、夫婦ともに基礎年金だけの世帯や、未婚で年金の少ない単身者は自助努力ではカバーできない。基礎年金には最低保障的な機能をもたせ、あとは自助努力でやるというような制度改正の議論がなされるべきだった。国民が年金や社会保障が不安だとおもうのは、政治が言葉にしないからだ」

 --具体的な制度設計は

 「日本の基礎年金は長く払った人が多くもらえる社会保険方式なので、貧困対策としては効率的でない。スウェーデンのような最低保障年金にするか、カナダのように老後所得の少ない人に補完してやる方が効率的だ。スウェーデンは夫婦か単身かで違うが9万円ぐらいもらえ、100%税で賄う」

 --消費税増税が必要になる

 「税金を上げる分、国民年金保険料を払わなくていいし、厚生年金保険料も下がる。厚生年金保険料の半分は企業負担なので企業が楽になる分は賃金に上乗せすればいい。ただ、与党も野党も社会保障のグランドデザインを描ける人がいないのではないか。役所の入れ知恵でなく、改革のメニューをきちっと出し、コストがどのくらいかかるか、国民に嫌がられても丹念に説明する人がいないと日本の未来は厳しい」  (田村龍彦)

     

にしざわ・かずひこ 昭和40年、東京都生まれ。一橋大社会学部卒。三井銀行(現三井住友銀行)入行。平成10年、さくら総合研究所(現日本総合研究所)に移り、28年から現職。専門は社会保障制度。

竹中氏「経済成長で自助環境を」

 --参院選では年金問題が争点の1つとなった

 「この問題が紛糾するきっかけとなったのは95歳まで生きるには、夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書だ。私はいろいろな講演会で『2千万円という数字に驚いたか』と尋ねてみたが、9割以上の聴衆は驚かないとの答えだった。日本の年金制度は本来、年金だけで全てを賄えるような制度設計にはなっていないことを多くの国民が知っているからだ。もちろん、今の年金制度の改善も必要だ。参院選ではこの点を論じるべきだったが、あまり議論は深まらなかった」

 --論戦が低調だった理由は

 「野党が対案を示さなかったからだ。野党は、マクロ経済スライドで年金制度は『100年安心』になったという政府の主張を批判してきたが、今の年金制度で安心ができないというのならば、増税や保険料負担の引き上げで北欧型の社会福祉国家を目指すなどの提案をすべきだった。しかし、現状への不平不満ばかりで議論にふたをしてしまった」

 --老後の資産形成のために国民の自助努力も必要か

 「昭和期には住宅と土地を購入すれば右肩上がりで価格が上昇し、老後はそれを貸したり、売ったりすれば暮らしていくことができた。日本人は資産形成を考えずに済み、『土地神話』が残った。米国などで一般的な経済やマネーに関する教育はほとんど行われず、資産形成の意識が日本人は身についていない。公的年金が不足しているのであれば、個人年金に入るなど自助が重要だ」

 --年金制度を維持するには増税が避けられない

 「そんなことはない。政策は順番が大事で、やるべきことをやらず先に増税だけをやってはだめだ。政府は国民が個人年金など自助に取り組める環境づくりを進めるため、国民の所得を増やし、蓄えができるような経済状況をつくっていかなければならない。規制を緩和して生産性を高め、労働市場を改革し、経済成長を高める必要がある」

 --これから必要な改革は

 「現在の年金制度は昭和36年に始まった制度だ。当時の日本人男性の平均寿命は60代半ばだった。今は男性が81歳、女性が87歳になっており、現状に合わせた制度改革は最低限必要だ。年金が必要ではない高額所得者に対する年金の支給制限などの検討も必要ではないか。また、年金問題を解決する究極のセーフティーネットとして政府が一定額の現金を無条件で支給する『ベーシックインカム』の導入についても議論していくべきだ」 (永原慎吾)

     

たけなか・へいぞう 昭和26年、和歌山県生まれ。慶大教授などを経て平成13年、小泉純一郎内閣で経済財政政策担当相として初入閣し、総務相などを歴任した。現在は日本経済研究センター研究顧問なども務める。

【記者の目】

 参院選の期間中、世論調査で有権者に重視する政策や争点を聞いたところ、「年金など社会保障」が40・6%で最も多かった。確かに与野党とも公約や演説で年金に言及していた。

 だが、各党や候補者は国民の期待に応え、老後の不安を解消する選択肢を提示できていたのだろうか。参院選の投票率が過去最低だった平成7年以来24年ぶりに5割を切ったことを考えると、そうは言えないと感じる。

 世論調査で10月の消費税率10%への引き上げへの反対が過半数を占める中、負担増を伴う年金の制度改正には政治的リスクがつきまとう。安倍晋三首相は24年12月の第2次内閣発足から安全保障関連法や働き方改革などを断行してきた。実績を残してきた長期政権だからこそ、年金をはじめとする骨太の社会保障制度改革に取り組む責任がある。  (田村龍彦)

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