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「ラスボス」小林幸子ができるまで 転落からネットの人気者に

『ラスボスの伝言』を出版した小林幸子さん
『ラスボスの伝言』を出版した小林幸子さん

 10歳の天才少女歌手として前の東京五輪の年に世に出てから55年。波瀾(はらん)万丈の歌手生活の末、インターネット世代の若者たちにも愛されるなど芸能界で唯一無二の存在になった。

 その若者たちがつけたニックネームが「ラスボス」。ゲーム用語で、最後に立ちはだかる最強の存在といった意味だ。NHK紅白歌合戦での豪華な衣装が「ラスボスっぽい」としてインターネット上で、そう呼ばれていた。

 『ラスボスの伝言 小林幸子の「幸」を招く20のルール』(小学館)は、「自分の機嫌は自分でとりなさい」「意見や希望は口に出せ」など、波乱の中で体得した独自の「ルール」を20個集め、エッセー風に語っている。

 初の著書だ。誘いは多かったが、「芸能人の本は、成功物語が多いでしょ。もう、そういう時代じゃない」と首を横に振ってきた。

 「『人生にはこういう切り抜け方がある』ということを伝えられるものにしたいと提案され、あ、それならできるかもしれない、とお引き受けました」

 語りおろしで、編集者と延べ約20時間をかけて半生を振り返った。

 昭和39年6月に歌手デビュー。新潟市から上京した直後に、新潟地震で実家が被災した。デビューのときから波乱。天才少女歌手ともてはやされたが、デビュー後は鳴かず飛ばず。クラブやキャバレーで歌って糊口(ここう)をしのぐ不遇の時代が、15年も続いた。だが、歌はやめなかった。

 「悔しさがバネになったから、歌い続けられた。もてはやされてヒットも出していたら、鼻持ちならない歌手になって、とっくに引退していたかもしれない」

 54年に「おもいで酒」が大ヒットし、長い長い苦労は、やっと実を結んだ。

 著書に収めた20のルールのうち「必ず誰かが認めてくれるよ! 続けてさえいれば」や「悔しさのエネルギーは自分を強くするバネになる ホントだよ!」などは、この経験から出てきた。「経験したことが書いてある」から、それぞれの言葉には説得力がある。

 「おもいで酒」のヒットで紅白歌合戦出場を果たし、豪華衣装も話題になるなど順風満帆に見えた歌手人生だが、平成24年に個人事務所をめぐるトラブルがきっかけで、まさかの暗転。新曲の発売延期、レコード会社との契約解除、紅白歌合戦の落選…。だが、このときも「ここで終わってたまるか」と歯を食いしばった。

 26年、若者に人気の動画サービス「ニコニコ動画」から、インターネットの生放送への出演を持ちかけられた。個人事務所の若いスタッフたちがおもしろがるのを見て、応諾した。

 「ついに落ちぶれたか」。芸能界では陰口をささやかれたが、その生放送をきっかけにネット世代の若者たちの支持を得た。アニメ映画の主題歌の依頼が舞い込むなど、仕事の幅も広がった。なによりも、音楽ビジネスにおけるネット活用の重要性は年々高まっている。早い段階から、これほどの親和性を発揮したベテラン歌手はいない。

 「チャンスは見えないところで動いています。すぐに対応を切り替え、そのチャンスをつかみ取ることが大事です」

 10歳の少女歌手には、想像もつかなかった55年後になっているだろう。著書に記した20番目のルールは、「未来の自分の姿は白紙でもいい」だ。(文化部 石井健)

こばやし・さちこ 昭和28年、新潟市生まれ。39年「ウソツキ鴎」で歌手デビュー。54年「おもいで酒」が200万枚を超える大ヒットに。同曲で日本レコード大賞最優秀歌唱賞など多数受賞。NHK紅白歌合戦出場を果たす。紅白では豪華衣装が話題に。近年は、アニメ「ポケットモンスター」の主題歌など幅広く活動している。

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