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【日本の議論】五輪渋滞対策 「カギ握る需要予測」「テレワークが効果的」 

東京五輪に向けた混雑緩和策の試行期間が始まり、早朝に運行される臨時列車(左)=22日午前、JR西船橋駅
東京五輪に向けた混雑緩和策の試行期間が始まり、早朝に運行される臨時列車(左)=22日午前、JR西船橋駅

 2020年東京五輪・パラリンピックの開催までいよいよあと1年に迫ってきた。課題は道路、鉄道ネットワークの交通輸送対策だ。大会組織委員会や都などは大会の円滑運営と都市活動の維持という2つの目標を掲げ、今夏、本番で実際に採用される、さまざまな渋滞混雑緩和策を試そうとしている。交通経済研究所調査研究センターの永瀬雄一さんと東京海上日動リスクコンサルティングの川口貴久さんにポイントなどを聞いた。

永瀬氏「カギ握る交通需要予測」

  --2012年ロンドン大会での交通輸送対策を検証した

 「ロンドンは東京と同様に人口密度が高く、交通インフラも整備された成熟都市だ。ロンドン大会の交通輸送の最重要課題も、選手や関係者をスムーズに会場に送り届けるために、既存の交通システムをいかにうまく運用するかがカギだった。そのために、まず、期間中の交通機関の混雑状況を予測することに力を注いだ」

 --交通需要の予測を重視したのはなぜか

 「大会前には鉄道の延伸や地下鉄の車両を増設する設備投資も行われた。さらに、運行時間の延長、五輪関係者が通る優先レーンの設置などの施策も講じられた。これらの対策を十分に生かすため、前提となる交通需要の綿密な予測を、何よりも優先して実施したということだ」

 --予測した混雑状況に応じた具体的な対策は

 「ロンドン市交通局によって、大会関係者が通行する道路の信号機を優先的に青にする運用も行われた」

 --市民や企業の理解を得るために何をしたのか

 「一般市民に対しては、大会期間中は、『不要な移動は行わない』『自家用車の利用を避ける』などを求めるキャンペーンを実施した。企業には、550社60万人以上を対象にワークショップを開催し、混雑回避に向けた理解の醸成に努めた。企業の協力がどの程度見込めるかという情報が予測に反映され、対策の精度を高めていった」

 --実際の成果は

 「ロンドン市交通局のリポートでは、ロンドン都心の交通量が午前ピーク時に16・3%、午後ピーク時に9・4%減少したというデータが見られた。ロンドン地下鉄では、通常時に比べ135%の利用だったにもかかわらず、定刻通りの発着実績が98%と高い水準を維持した。おおむねうまくいったとみてよいのではないか。一方で、イギリス運輸省の統計によると、競技会場を抱える地域の交通速度が、通常時に比べて最大で時速4マイル(約6・4キロ)程度遅くなったというデータもある」

 --これらの交通輸送対策は東京大会にも活用できる

 「すでに、都が検討している輸送運営計画案の随所に、ロンドンの対策事例が織り込まれており、ロンドン五輪・パラリンピックのレガシーとして活用されようとしている。東京大会の実績は、今後都内で大きなイベントが開催される際の交通輸送対策に貴重なデータを残すだろう。24年パリ大会や28年ロサンゼルス大会にも、さらに精度を高めて引き継がれていくことを期待している」(田中徹)

ながせ・ゆういち 昭和52年生まれ。ロンドン大学キングスカレッジ卒(修士)。現在、交通経済研究所調査研究センター副主任研究員。ロンドン五輪・パラリンピックにおける交通輸送対策を分析。国内外の交通事業や政策についても調査・研究している。

川口氏「テレワークが最も効果的」

 --東京大会期間中の交通渋滞や鉄道の混雑をどのように位置づけるか

 「期間中にはさまざまなリスクが想定されているが、自然災害や熱中症などと同様、東京大会の本丸リスクの一つと考える。ただ、リスクマネジメントの観点から考えると、起きる場所や時間帯はすでに分かっているので、対策を取りやすいリスクでもある」

 --ポイントは何か

 「競技会場周辺や都心に入る人や車などの量をいかに減らすかだ。そのためには、時差出勤や自宅などで仕事を行う『テレワーク』の導入が最も効果的といえる。期間中に会社の従業員の休みを合わせることも根本的な対策となる。東京本社への出張のタイミングを大会の前や後にずらしたり、必要ではない都心での営業車両の走行をやめたりする対策も重要だ」

 --企業の活動を全て止めるわけにはいかない

 「業務の中で、会社で従業員が働かなければ、企業活動全体に支障が生じる部署がある。その部署の人たちは大会期間中にも出勤しなければならない。東京五輪をきっかけにして、優先業務の洗い出しや事業ごとの仕分けを行って、本当に出社する必要がある業務とそうではない業務の選別を行うことが働き方改革にも沿った対策となる。1964年大会のレガシー(遺産)は新幹線などのハード面での整備だったが、2020年大会はソフト面での改革がレガシーになると考えている」

 --五輪を機に物流は変わるか

 「共同配送や倉庫運用の改善など『シェアリング』の仕組みが進展する可能性がある。1社だけでは本格的に実施できなかったので、五輪は業界全体が取り組む好機になるからだ」

 --鉄道対策はどうか

 「首都高の混雑は車両の通行量を減らせばよいが、鉄道を止めるわけにはいかない。時差出勤では、早朝にずらす方法を勧めている。一人一人の通勤時間や経路は違うので、個人でも時差出勤を試して、駅の様子などを確認してみるのもいい」

 --対策を取らなければどのようなリスクとなるか

 「東京五輪の成功は、日本の成功でもある。外国人観光客にいかに心地よく観戦してもらうかで、日本に対するイメージも違ってくる。成功すれば、五輪で導入される日本の最先端テクノロジーの格好のアピール材料となり、海外ビジネスでのチャンスも広がる。交通輸送対策はその意味で重要だ。企業にとって、対策は五輪のためではなく、事業の効率化や従業員の働き方改革のために行う必要性がある」(佐々木正明)

 かわぐち・たかひさ 昭和60年生まれ。慶応大大学院を修了後、平成22年に東京海上日動リスクコンサルティング入社。専門分野は地政学リスク、サイバーリスクなど。近著に『「技術」が変える戦争と平和』(芙蓉書房出版、共著)。

【記者の目】

 東京五輪・パラリンピックの大きな課題である交通渋滞、鉄道の混雑への対処策は東京がこれまで悩まされてきた、大都市ゆえの社会問題を解決に向かわせる可能性を秘めている。

 都心に張りめぐらされた道路・鉄道のネットワークは時間短縮に貢献しているが、その便利さえゆえ、人口の増加やサービスの多様化を生み、混雑や渋滞が発生する要因にもなった。

 今大会の交通輸送対策は都心に入る人・モノを減らす交通需要マネジメント(TDM)と、渋滞箇所の通行規制を行う交通システムマネジメント(TSM)が柱。高速道路の通行料金を上げ下げするロードプライシング導入も検討されている。こうした対策がうまくいけば、企業活動の効率化や働き方改革にも弾みがつき、東京大会のレガシーとして、今後、対策が定着することも期待される。(佐々木正明)

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