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向井理×赤堀雅秋「生々しい幸福のあり方」 震災を背景に日常を描く舞台「美しく青く」

舞台「青く美しく」に出演する向井理(右)と赤堀雅秋=東京都渋谷区(三尾郁恵撮影)
舞台「青く美しく」に出演する向井理(右)と赤堀雅秋=東京都渋谷区(三尾郁恵撮影)

 被災地を舞台にした群像劇「美しく青く」が11日から、Bunkamuraシアターコクーン(東京都渋谷区)で上演される。東日本大震災から8年たち過疎化が進む地方都市で、人々が抱える閉塞(へいそく)感や鬱屈、かすかな希望を、日常生活を通して描く。脚本・演出の赤堀雅秋(47)は「震災をどう捉えるべきかいまだ分からないけれど、描きたかったのは身近な人々の幸福のあり方」、主演の向井理(37)は「生々しい物語。でも生きることの醜さ、美しさが詰まっている」と語った。 (文化部 三宅令)

徹夜で脚本書き直し

 未曽有の震災から日常を取り戻しつつある町は、人慣れした野生の猿による「猿害」という問題を抱えていた。青木保(向井理)らは町のため自警団を結成するが、成果は上がらず、独善的な行動もあって理解者は少ない。保が自警団にのめり込む一方で、妻(田中麗奈)は認知症の実母(銀粉蝶)の介護に疲れ果てていた…。

 被災地が舞台だが、決して震災の記憶は前面に出てこない。時折、主人公の幼い娘が亡くなったという事実が、物語に影を落とす程度だ。赤堀は「“被災地”や“震災”がどうとかが、観劇の入り口になってほしくない。そこに焦点が当てられると、物語を斜に構えてみてしまう人や、拒否反応を起こす人がいるだろうから」と話す。

 当初は、仮設住宅を舞台に、原発反対運動も出てくるあらすじだった。しかし、あらかた構想が出来上がった後に福島を訪れ、そこに暮らす人々の話を聞き、被災地の現状を目の当たりにしたことで、「太刀打ちできない。僕みたいなつたない劇作家がしたり顔で描けることではない」と実感。脚本を徹夜で書き直した。「震災という悲劇を、ドラマの都合というか、観客を感動させるためだけの道具立てにしたくなかった」。脚本が書き上がったのは本稽古が始まる直前だった。

地続きの出来事

 もっとも、物語の根本的なテーマは変わっていない。「特別じゃない人間の営みとか、幸福のあり方を書きたい」と話す。登場人物をあえて東北弁にしないのも、舞台上で展開する世界を観客と地続きの出来事だと感じてほしいからだ。「例えばこれが再来年の東京の姿を描いたといっても、納得してもらえるような。僕はただ人間を見つめていたい」

 今作で初めて、赤堀の演出する舞台を踏む向井は、「赤堀さんの舞台で、僕が好きなのは日常の地続きの物語であること」と力を込める。「面白かったとかつまんなかったとか、そういう単純な話では終わらない。幕が下りた後に、自分はどうなのかと考えさせられる」

 主人公の青木は、集落の人間関係や、義理の母や妻が抱える問題、震災の記憶と向き合おうとせず、「逃げてばかりの男」だという。単純に「震災で娘を亡くした悲劇の男」ではない、そのぶざまで生々しい人物造形にひかれている。「僕も問題を後回しにしたくなることがあるので、気持ちはわかる。世の中、実直な人間ばかりではない。僕ら誰でも、お酒とか、大なり小なり逃げ口を見つけて生きているところがあるでしょう」と優しい目線を注ぐ。

生きることの美醜

 震災当時、向井は大阪にいて、舞台の初日を迎えていた。「照明もおぼつかない状態。無理を通して上演したけれど、当時は不謹慎だと批判された。待っているお客さんがいるからと、大阪から九州へ巡業したことも、『あいつは逃げている』なんて言われた」と振り返り、こう口にした。

 「絶対的な平和の上にエンターテインメントは成り立っているということに気付かされた」

 震災を背景に、日常を描いた作品を主演するにあたって、「何気ない日常って、絶妙なバランスで存在していて、本当は得難いもの」だと語る。「舞台を通して、改めて生きることの醜さや美しさを感じてもらえれば」と笑顔を見せた。

 都内では28日まで。問い合わせはBunkamura03・3477・3244。

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