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ビジネス感覚はアートで磨け 国立美術館のセミナー、すぐ満員

ビジネスエリートに向けた美術の本が続々刊行されている
ビジネスエリートに向けた美術の本が続々刊行されている

 ビジネスパーソンには論理や理性だけでなく、感性と美意識、そして世界に通用する教養が必要だ-。近年、アートを通じて得た新たな視点や経験を、経営やビジネスに生かそうとする機運が高まっている。大型書店では、美術鑑賞で感性磨きを推奨する本、基本的教養として美術史を説いた本などがずらりと並ぶ。こうしたニーズを背景に、東京国立近代美術館(東京・竹橋)では初の試みとして、ビジネスパーソン向けに特別な鑑賞セミナーを企画。早くも注目されている。

すぐに満員に

 題して「Dialogue in the Museum-ビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップ」。16刷11万部発行のベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)の著者、山口周氏と同美術館が共同開発したプログラムで、「アートを通じてビジネスシーンに役立つ観察力、思考力、表現力、多様性の理解、美意識を鍛えるためのトレーニングを行う」とある。

 今年度は3回ほど開催予定で、初回は6月22日。約3時間のプログラムで受講料は2万円(観覧料やテキスト代、消費税込み)と決して安くはないが、先月下旬に受付を開始するや、一日も経たないうちに申し込みが定員30人に達した。

 「世の中のニーズに対応し企画したものですが、あまりの速さにびっくりしました」と同館広報担当の藤田汐路さん。受講予定者は主に30、40代だが、職種は幅広いという。

 美術館が行うギャラリートークといえば、講師が一方的に解説するスタイルが一般的だが、このプログラムでは講師や参加メンバーらが本物の名画を前に「対話」を重ね、ビジネスシーンにも役立つような、より刺激的で深い鑑賞体験が味わえるそう。こうした対話鑑賞プログラムは、1990年代から欧米の先進的美術館が取り組んできたものという。

 論理や理性にのみ依拠すると他者と同じ結論に至ってしまうが、感性を磨くことで、今までにないサービスや商品を生み出すなど「差別化」につながるかもしれない。経営者の場合、不確実で高度な意思決定を迫られる局面で、最終的にものを言うのは直感や感性、あるいは哲学や美意識だったりする。そうしたものは一朝一夕に培えるものではなく、山口氏の著書によると、ニューヨークのメトロポリタン美術館の早朝ギャラリートークにはグレースーツのビジネスパーソンの姿が増えているそうだ。

 横山大観や岸田劉生、藤田嗣治らの名画を中心に、国内最大級のコレクションを誇る同美術館も、16年前から毎日(休館日を除く)、ボランティアのガイドスタッフによる「所蔵品ガイド」を行い、対話鑑賞を日々実践してきた。「その積み重ねとノウハウを、今回のプログラムに生かしている」と藤田さんは強調する。

美意識で打破を

 めまぐるしく変化し、不安定かつ複雑な今日のビジネス環境。論理的思考の限界を、美意識を磨いて打破したい-。功利的な動機だけではないだろうが、ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長のように、アートを収集し、身近に楽しむ経営者も増えている。

 例えば、英国の現代美術家ジュリアン・オピーの作品を中心にアートコレクションを誇る、ネット企業のGMOインターネットグループの熊谷正寿代表は、東京・渋谷のオフィスに数多くの作品を飾り、社員らの目を楽しませている。以前その理由を聞くと、こう話していた。

 「本物のアートで彼らの感性を刺激したい。インターネット時代は感性の時代。プログラミングのコードも、天才が描くコードは無駄がなく美しいんです」

世界で闘うために

 ビジネスパーソン向けのアート関連書籍を見ると、「アートを通じて美意識・感性磨きを促す啓発的な本」と、「教養としての美術史・絵画の解説本」に大きく分かれるようだ。

 後者のベストセラー『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』(ダイヤモンド社)の著者で西洋美術史家の木村泰司さんは、日本のビジネスパーソンにありがちな“悩み”が背景にあると語っていた。「海外駐在の経験がある方が、ビジネスシーンで『2時間のディナーの間がもたない』とおっしゃる。『これでは取引先にはなれても本当のパートナーにはなれない』と」

 このほど『カラー版 世界の一流が必ず身につけている西洋美術の見方』(宝島社)を著した宮下規久朗・神戸大大学院教授は、同書の中で欧米と日本の教育の違いを指摘している。義務教育で何度も美術館に連れていかれ、「美術史」の科目もある欧米では、社交の場ではやりの展覧会や好きな画家について話題にするのは一般的だという。

 「日本ではフェルメールや印象派などの企画展が活況である一方で、学校で美術史を教わる機会は乏しいことから、入門書への潜在的ニーズがあるはずと常々感じていた」と宝島社第1書籍局の形部雅彦さん。作品を「歴史」と「技法」の両面から読み解く趣向で、「美術を心からたのしみ鑑賞できる目を養っていただければ」としている。

 ビジネスに役立つという理由だけでなく、長い目で見て、アートは人生を豊かにするといえるだろう。 (文化部 黒沢綾子)

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