PR

ニュース プレミアム

裁判員10年 裁判官インタビュー(3)「日本が変わる一場面を経験」東京高裁・大熊一之裁判官(61) 約70件担当

 「弁護人については、組織としての育成が難しいんですよね。弁護士会内部で研修をしていますが。ただ、モチベーションの高い人はどんどん勉強して非常にいい仕事をしてくれて、私は(さいたま地裁で)100日裁判の事件(首都圏連続不審死事件)を担当しましたが、当事者に恵まれたと思います。検察官は非常にコンパクトに的確な立証をしてくれました。弁護人は非常にやる気のある人ばかりで、立証はこだわったんですが、こだわる理由が分かるところでこだわってくれました。言ってみれば、当事者がいい主張立証をしてくれれば、裁判官は腕組みをして眺めていてもおのずと判断できます。事案が難しかったので時間はかかりましたが、非常にそういう意味では、土俵を設定する上での苦労は何もありませんでした」

 --裁判員制度に今後、期待することは何ですか。抱負も教えてください

 「私はもともと、政治学を学んでいました。政治哲学では、国民がいかに客体でなく主体的に国に関わるかというのが非常に大きなテーマなんですね。学生時代に読んだのが『アメリカの民主主義』です。フランス人のトクヴィルが、ジャクソン大統領の下で民主主義が花開いた『ジャクソニアン・デモクラシー』時代のアメリカに行って書いたもの。彼が言っているのは、統治機構の中に一般の人が加わって、自分の責任でルールを作り、自分の責任でルールを守るという経験が非常に大事で、その一端が陪審だ、と言っているんです。裁判員裁判が始まったときは、刑事裁判とか犯罪に対して、なんとなく人ごとだったと思うんです。われわれは専門家の間だけで議論していて、その中でベストを尽くしていたんですけど、でもそれはやっぱり国民の気持ちと刑事裁判がどんどん離れているように感じて、そこをなんとか打破できないかずっと思っていました」

 「経験者の方は、犯罪だけでなくてコミュニティーについても結構、雑談の中で話されるんです。『身近にこういうことを思って犯罪に走る人がいるんだね』とか。この事件については有罪あるいは無罪という結論が評議でまとまって手を離れるけれど、『地域とかコミュニティーに帰ったら自分がやれることを何か考えて行動をとれるんじゃないかと思っています』などとおっしゃる人がいるんですね。これこそまさにトクヴィルが言った、アメリカの民主主義じゃないかなと。その場面を僕は追体験したかと思いました。おそらく、1件の裁判を裁くことによって、自分の人生とか生き方とかコミュニティーのありかたについて、責任を持つことって何なのか、ということを皆が思いながら日常生活に戻っていって、日本が変わっていくんじゃないかなと。その変わっていく一場面を、僕は裁判官生活の一番いい場面で経験させてもらった。こんなにうれしいことはない」

 「裁判員が加わった1審を、キャリア裁判官の高裁がひっくり返していいのかというアンチテーゼがある。一般国民が感じたことは重要なご意見ではあるんだけど、常に完全正解であるわけではなくて、それが裁判員6人、裁判官3人の合計9人だとしても集団で間違うことはありうる。集団で間違った判断が一人歩きしたら、冤罪(えんざい)だったら被告人が気の毒、無罪だとしたら本当に被害にあった被害者が気の毒。それは正義でない状況ですよね。正義でない状況が万が一あるんだったら、そこは安全弁として高裁は機能するんじゃないかなと思います。さらに言うならば、三審制は絶対必要で、1審の判断が誤っているならどこかで是正していく。1審が、生の証人の表情とか、逡巡(しゅんじゅん)とかためらいとか、そこも含めてトータルで証人が信用できるかどうかを判断しているのは尊重しましょうと。尊重はするんだけど、論理の飛躍があるとか矛盾してるとか重要な証拠を考慮してないというところがあるんだったら、生の証拠を見なくても、後から十分審査できる。その限度で控訴審は審査するんだったら、1審の裁判員制度と矛盾しないし、控訴審の役割を十分果たせるでしょうというスタンスで、控訴審はやってるんですね。事後審の徹底という言い方なんですけど。こういうやり方をやっていれば、これは良かったとか悪かったという判断を、判決を通して1審に伝えることによって、1審の裁判員裁判はより良くなると思うし、判決の中で示せないことも、裁判の秘密を守る限度で一般化する形で、他の裁判員、裁判官に対して情報提供したり内部で勉強会もすべきだし、さらにいえば、自分がした判断自体も正しいのかを虚心坦懐(たんかい)、同僚の高裁裁判官と意見交換してやっていったほうがいいなと。それくらい謙虚に謙抑的にやっていくべきだなと思います」

■大熊一之 

 おおくま・かずゆき 昭和60年判事補。司法研修所教官、さいたま地家裁部総括判事、東京地裁部総括判事などを経て、平成29年4月から東京高裁部総括判事。61歳。24年4月、首都圏連続不審死事件で交際していた男性3人への殺人罪などに問われた女の裁判員裁判で、求刑通り死刑を言い渡した。裁判員の在任期間は当時最長の100日に及んだ。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ