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裁判員10年 裁判官インタビュー(3)「日本が変わる一場面を経験」東京高裁・大熊一之裁判官(61) 約70件担当

東京高裁の大熊一之裁判官=4月18日、東京都(納富康撮影)
東京高裁の大熊一之裁判官=4月18日、東京都(納富康撮影)
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(聞き手・滝口亜希、件数は担当した1審裁判員裁判の数)

 --裁判員制度が21日で施行から10年を迎えました。制度の施行によって、刑事裁判全体に変化はあったと感じますか。変化したとすればどのような点でしょうか。また、裁判官の仕事に変化はありましたか

 「私、刑事裁判官をやって30年超えています。当初は東京地裁の刑事部の左陪席でスタートしました。実は希望は民事でした。表面的にしか見られていなかったと思うんですが、刑事が魅力的でなかったんですね。先達が苦労して刑事裁判のスタイルを確立されたんですけど、やや形式化、形骸化していて、弁護士から見るとやりがいがない。法廷では検察官が起訴した事件が99%超で有罪になってしまって、『やりようがないんじゃないか』という気持ちが蔓延(まんえん)してしまい、あまり熱心な弁護人が国選でつかない。従って検討が不十分で法廷があまり活性化しない。他方、カウンターがそういう状況ですと、検察官も気が緩みますよね。そうすると、主張・立証や証拠を見ると、どうなんだろうという(疑問を感じる)ものがたくさんあるわけですね」

 「それを補っていたのは裁判官のがんばり。整理されていない主張関係や証拠関係を見て、裁判官が使命感と責任感を持って、ウンウンうなりながら判決を書いていた。これが精密司法といわれる実態なんです。それは本来あるべきものではないと、皆思っていたんですが、変える手がかりがなかく、閉塞(へいそく)状況だったのが30年前の刑事裁判。ところが、裁判員裁判の導入で劇的に変わりました。法廷が本当に生き生きとしているんですね。まず検察官が変わらざるえない。十分に準備して分かりやすい証拠調べをしなければ、自分が目指した結論が出ない可能性がある。弁護士も『頭の古い裁判官だと結論が変わらないかもしれないが、フレッシュな裁判員だと、自分の狙った結論が出るかもしれない』という手応えみたいなものを感じ、お互いに非常に一生懸命やってくるようになったんです。法廷自体が非常に活性化し、証拠調べで図面やパワーポイントを使って、書面自体を工夫するようになりました」

 「何より、判断の分かれ目となるようなポイントでは、直にその場で疑問点を解消してもらう必要があり、証人を必ず呼ぼうということになりました。検察官はその証人が自分の狙ったことをしゃべってくれるのか、十分準備をするので、公判が非常に緊張感を持ったものになりました。30年前とは様変わりしたと思います。本質的なものに目を移して判断する本来の裁判になった。大きな変化だと思います」

 --当時、国民が刑事裁判に参加し、主体的に判断することは可能と考えていましたか

 「ハードルは高いけれどもできるなと思っていました。その理由の一つは、裁判で判断しなければならないことは、その事実があったかなかったかという問題なんですね。そういう判断は、日常生活の中で国民が毎日やってることです。たとえば子供を叱る際に、いたずらをしたかどうかという事実認定をしなければいけない。子供は『やってない』ととぼけているが、こういう痕跡がある、ということを積み重ねて事実認定し、子供を叱っているんじゃないでしょうか。ビジネスの上でもおそらく同じような面はたくさんあるわけで、日常生活とは異質なことをしてもらうわけではないと思っています。ただ、丸投げするのではなく、何が判断対象でどんな判断材料があるのかということを少し交通整理して提示する必要があります。また、法律解釈が問題になる裁判では、裁判官が分かりやすく説明して交通整理すれば、十分成り立つと思いました。ただ、裁判官は従前、そういうことをやっていませんでした。言ってみれば、裁判官同士で、職人同士で議論してますから、分かりやすく伝えるというのはこれまでにないハードルで相当大変だと思いましたね」

 「しかし私は、これは大変だけども、払うコストに比べて得られるメリットは非常に高いと思います。かつて、刑事裁判官バッシングというものがありました。私は悔しい思いをしました。『裁判官は非常識』『間違った判断や常識に反する判断をしている』とかですね。そもそも『庶民が行くような飲み屋、居酒屋にも行かず、酒も飲まないだろう』と。私は普通の人と同じ高校・大学を出て、同じような生き方をして、同じような考え方をして裁判官になっただけだと。法律家としての修業は積んで、スキルを磨くための訓練はしたけれど、みずみずしい感性なんて何も失ってないつもりでいる。普通に話をすれば通ずるものはたくさんあるはずなんだけど、『裁判官は弁明せず』と言いますか、(考えを表明するのは)判決だけになります。一般的に報道されるのは結論だけですから、一人歩きしているわけですね。それが非常に悔しくてですね」

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