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小さな個人から変える未来 世界的美術家、オラファー・エリアソン

「リトル・サン」について説明するオラファー・エリアソンさん=東京都現代美術館
「リトル・サン」について説明するオラファー・エリアソンさん=東京都現代美術館
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 デンマーク生まれのオラファー・エリアソンは、世界が注目する美術家のひとり。氷や水、霧といった自然現象を機械装置と組み合わせて変容させ、見る者の知覚と認識を揺さぶる作品を各地で発表、高く評価されてきた。

 来年2020年3月から大規模個展が東京都現代美術館(東京都江東区)で開催するのを前に、このほど同館でエリアソンによる特別講演が開かれた。彼の主要な関心事である「エコロジー」をテーマに、アートを通じて環境や社会に対し何ができるのか、アートの可能性について熱く語りかけた。

観客も作り手

 エリアソンを一躍有名にしたのは2003年、英ロンドンの美術館、テート・モダンで発表した作品「ウェザー・プロジェクト」だ。吹き抜けホールの壁に巨大な太陽を映し出し、天井一面に張った鏡、立ち込める霧によってオレンジに染まる幻想空間をつくり出した。

 観客らは「夕陽」を眺める体験を共有する。いや、観客が「夕陽」と認識して初めて作品は成り立つ。実際、エリアソンはこの作品について「集団の意志として、都市の中に自然そのものを出現させる試みだった」と振り返る。「従来、鑑賞者とされる人も、ここでは作り手となります」。個々の自然を慈しむ心、畏怖の心が集まって生んだアート、といえなくもない。

実感が大事

 地球規模の気候変動に対し、人々の行動喚起を促す作品もある。グリーンランドから空輸した氷塊を街の中に展示する「アイス・ウォッチ」シリーズだ。これまでCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの開催に合わせて、パリやロンドンなどで繰り広げてきた。

 「気候変動のように対象が大きすぎると、人間は知識として知っていても実感がわかないもの。私がやってきたのは、皆さんが感覚を研ぎ澄ます場をつくること。知識と実感のギャップに橋をかけること」

 人々は氷塊を目前にして「きれいだな」と思う。近付いて冷気を感じたり、触ってみる。氷が溶けるにつれ、気泡がかすかな破裂音をたてるのが聞こえるという。「氷に閉じ込められていた1万5000年前の空気です。こうした体験を通してグリーンランドや南極で起きていることが、ようやく現実のこととして実感できる。行動はそこからです」

小さな太陽

 エリアソンは講演中、“小さな太陽”を取り出した。スイッチを入れると、太陽は周囲を明るく照らし出す。実はこれ、エリアソンがエンジニアらとともに開発した太陽発電式のLEDライトで、「リトル・サン」と名付けたアート作品である。

 「世界で7人に1人は満足に電力が使えない状況にある。そういう人たちのために持続可能で安定的に使える明かりを考えました。小さな美術作品です」

 一晩明かりを照らすには軽油20ミリリットルが必要だが、リトル・サンなら5時間の太陽光発電ですむという。「確かに小さな話です。でもこの数年で、私たちはこの小さな装置を世界中で100万個届けることができた。個人の小さな行動が大きな変化を起こし得る、一つの事例です」

文化の可能性

 このように近年のエリアソンの創作は、アートを介した社会貢献活動といった側面が強まっている。アートを介することは一見、回りくどいやり方に思えるが、彼は文化芸術にこそ社会を変える大きな可能性があると力説する。

 「私が思う偉大な文化芸術とは、私たちの無意識のうちにあるもの、まだ言語化されていないものを、言葉や色や形といった表現で顕在化させてくれるもの。そして私、私たちの声を拾い上げてくれ、心が必要とするものに応えてくれる」

 それは、政治家も民間企業にも果たせない、文化が持つ力。「私は文化に関わる組織や機関、文化施設に希望が持てると思う。なぜかというと、どんな小さな国、町、村にも必ず文化にまつわる集いがある。みんなで詩を書いたり朗読をしたりね。文化は市民社会につながっているのです」

 来年の個展に向け、現在「東京でリサーチ中」とのこと。どんな気づきをもたらしてくれるのか、今から楽しみだ。(文化部 黒沢綾子)

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