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戦争の傷跡とほほ笑み 写真家・大石芳野さんが『長崎の痕』

大石芳野写真集「長崎の痕 それでも、ほほえみを湛えて生きる」から
大石芳野写真集「長崎の痕 それでも、ほほえみを湛えて生きる」から
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 戦争で受けた体と心の傷は、死ぬまで残る。時には死んだ後も-。半世紀にわたって世界各地で戦争被害者の取材を続ける写真家の大石芳野さんが、長崎で被爆した人々の人生とその記憶に向き合った写真集『長崎の痕(きずあと)~それでも、ほほえみを湛えて、生きる』(藤原書店・4200円+税)を出版した。カメラに写る人々には、原爆投下による痕とともに、凜とした何かが浮かび上がる。  (文化部 花房壮)

 「広島の被爆者の写真集を出した後、『長崎も取材しないと悔いが残る』と思い、約20年にわたって足を運びました」

 昭和20年8月9日、広島市に続き史上2発目の原子力爆弾が投下された長崎市。そこでの惨禍を生き延びた130人の写真と証言、平和への祈りを収録したのが今回の作品だ。

 タイトルに記された「痕」も確かに収められている。被爆して19日目に亡くなった中学生が着ていた学生服、焼け跡から見つかったロザリオ、背中の大やけどの生々しい傷痕…。被爆者として受けた学校でのいじめ、結婚差別といった心の傷痕の証言も収められ、戦後70年余りがたったあとも消えない苦しみが刻まれている。

 「タイトルを付ける際、『それでも、ほほえみを湛えて、生きる』を何とか入れたかった」。大石さんの強い思いは、ほほ笑みを浮かべる人々の静かで優しい表情からそのメッセージを読み取ることができるが、それは単なるほほ笑みではない。凜とした強さもにじむのだ。

 「3つのがんを患った女性は『病気になるのは仕方ないが、病人にはならない』と言い、私自身が大変感銘を受け、勇気づけられた」と振り返る。

 防空壕を掘っていた際、間一髪で命拾いした女性は、取材に対し当日の様子を分刻みで再現。大石さんは「運命というものについて深く考えさせられた」という。

 約20年にわたった取材だが、後半は時間との競争だった。「この人たちがお墓に入る前に何とかしなければ、と取材への焦りが強まった」。写真家を突き動かした使命感は、取材のスピードを加速させ、集大成にこぎつけた。

 とはいえ、まだまだやり残した仕事はある。今後のテーマを聞くと「『戦争は終わっても終わらない』を今後も自分のペースで追いかけます。まだシリアにも行っていませんし…」

 大石さんはほほ笑みを浮かべながらそう口にした。

おおいし・よしの 東京都出身。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ドキュメンタリー写真を手掛け、戦争や内乱、文化に彩られた市井の人々の生活などを追っている。平成13年、女性で初めて土門拳賞を受賞したほか、19年にエイボン女性大賞、紫綬褒章を受けた。主な著書に『ベトナム 凜と』『沖縄 若夏の記憶』『コソボ 絶望の淵から明日へ』『福島 FUKUSHIMA 土と生きる』『戦争は終わっても終わらない』など。12日まで東京都目黒区の東京都写真美術館で「戦禍の記憶 大石芳野写真展」を開催中。問い合わせは03・3280・0099。

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