PR

ニュース プレミアム

鉄オタ向け介護サービス 路面電車で実証実験

ものを上手に飲み込めるように、食事の前に介護施設で行う口腔体操を、駅名の早口言葉で行った=3月9日、札幌市電の車両内
ものを上手に飲み込めるように、食事の前に介護施設で行う口腔体操を、駅名の早口言葉で行った=3月9日、札幌市電の車両内
その他の写真を見る(1/4枚)

 鉄道ファン向けに、介護プログラムを動く電車内で提供する実証実験「電車で老GO!」が3月9日、北海道で行われた。開業100周年を迎えた日本最北の路面電車、札幌市電に揺られて約1時間。実際に乗車し、未来型の介護サービスを体験してみた。 (牛田久美)

電車で体幹を鍛える

 午前11時、札幌市の「すすきの」停留場。1両編成の「3300形3305車」が出発した。環状線を内回りで1周する。

 「本日は札幌市電にご乗車くださり、誠にありがとうございます。これから、あへあほ体操を始めます」

 手製の車掌さん用帽子をかぶってマイクを握るのは、函館市の団体職員、重山喜重さん(33)。熱烈な鉄道ファンだ。重山さんは“路面電車好きの乗り鉄”という。

 参加者が自己紹介をした後、重山さんのかけ声で、さっそくあへあほ体操に挑戦。札幌発の腹筋運動で、「あ」「へ」「あ」「ほ」と発声しながら、「へ」と「ほ」で腹をへこませる。貸し切りのため、車両は各停留場を通過。ホームで電車を待つ乗客たちは、

 「あっへー!」

 「あっほー!」

と車内で叫ぶ私たちを、目を丸くして見ていた。

社会通念を破る提案

 主催は、厚生労働省の補助事業「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」。公募の470人が知恵を絞り、全国で67の提案が生まれた。電車で老GO!はその一つだ。

 昨年12月、東京・上野公園の地区発表会で「人生は60歳からが楽しい」「いつまでもときめきとセックスのある日々を応援したい」とマイクを握ったのは20代の女性、東京都内の在宅診療所のアシスタントだ。会社員、就労支援員、介護士、歯科医、社会福祉士と「医師監修の雑誌キュンキュン」創刊を発案した。

 ほかに、介護施設で酒を醸造して地域の交流拠点にする▽小学校の主要5科に介護や老いの要素を組み込む-など社会通念を打ち破るさまざまな提案が発表会「おいおい老い展」(3月末、東京)に並んだ。

 電車で老GO!は、施設に通うのではなく、街で好きなことをしようと「移動式介護」を検討した班が「札幌といえば市電」と意気投合。北海道の鉄道おたくに対し、東北では軍事おたく向けにほふく前進などを運動に導入、指導できる専門スタッフを募った。

 デザインスクールを主催した「スタジオ・エル」(大阪府吹田市)の山崎亮代表(45)は「住み慣れた地域の介護施設からおたくを探すと2~3人しかいないかもしれない。テーマ型で集まって、そこへ引っ越すぐらいのことが、人生最後の選択としてあってもよいと思う」と語る。

非公開の構内へ

 やがて、電車は市電の事業所構内へ。除雪で忙しい冬季をのぞいて、安全を確保できる範囲で見学を受け付けているという。

 その直前、路上でカメラを構える“撮り鉄”の姿があった。「昔は車庫への軌道へ入るときバネを弾く音がして、それを楽しみにする“音鉄”もいた」(重山さん)

 色とりどりの球をシーツの上で弾ませる「ボールトランポリン」に挑戦。球は車両内のあちこちへ飛んでいく。連続25回を達成すると歓声が上がった。シーツ上の球を転がして箱に入れるゲームも、成功のたび拍手がわいた。介護プログラムというより、楽しいゲーム大会だ。

 最後は「市電の音を聞こう」。耳を澄ませると、それまで気に留めなかった音が、突如、ゴトンゴトンと響いてきた。低く長い音、リズミカルな音…。特別な体験に思えるから不思議だ。「資生館小学校前」の手前でゆっくり右折した。

 と、そのときだ。電車が3回、グッ、グッ、グッと大きなエンジン音を立て、ぐんぐん加速。スピードを維持したまま、直進し、この日の終点、すすきのへ到着した。

つり革でストレッチ

 「あの加速音は路面電車ならでは。運転手さんが、特別に、ぼくたちのためにアクセルを踏み込んでくれた」。下車後、うれしそうな重山さん。「音鉄が集まっていたら、エンジンの製造メーカーによる音の違いが話題になって、さらに盛り上がる」

 最後まで好きなことをしながら、自分らしく暮らしたい-。鉄道ファンを楽しませる介護サービスの実証実験は大成功に終わった。

 期末テストのあと駆けつけた“撮り鉄”の立命館慶祥高校2年(当時)、粕和(かず)篤(ま)さん(17)は「母が働く施設で、けん玉とか一対一の遊びをよく見かける。きょうはみんな一体となって良い機会だった」。

 運転手の市交通局員、加福良邦さん(60)も「おもしろかった」と満面の笑顔。「市電は揺れも少なくて高齢の乗客が多い。車内の介護サービスは、まったく夢ではない」

 スクールは、今後、つり革にぶらさがってストレッチ▽昼食は駅弁▽レクリエーションで路線図を書く-なども企画したいという。全国の鉄道で応用できるよう、電車型バッグに用具を収納するキットも作った。

 老いたら趣味をあきらめるのではなく、いつまでも趣味を楽しく続けたい。オタクティブシニア(おたくの高齢者)の充実した人生は、健康と介護予防に役立つだけでなく、きっと本人にも、周囲の人にも最高の幸せだ。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ