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【ダニーの棋食徒然】出会いと別れを舌で味わう桜の季節

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 今年もまた桜の季節を迎えることができた。この時期は一般的にも転勤や卒業など、出会いと別れの季節と言われる。それは将棋界にとっても同じであり、プロ入りの最終関門である厳しい三段リーグ戦を勝ち抜いた新四段の誕生や、もしくは年齢制限による退会が決まってしまう悲喜こもごもの季節である。

 棋士の進退だけでなく、今年は東京・将棋会館への出前に長年尽力してくださった名物そば店「みろく庵」の閉店もあり、会館周辺からも惜しむ声がよく聞こえてきた。

 こうした別れや喪失から人を癒すのは、時間が一番だと言われることが多い。それは単に別れてからの時間の経過という意味だけではなく、別れる前にどれだけの濃密な時間を共有できたかということでもあろう。私たちは失う前に失うことを実感することはできないが、失うことに備えることはできる。

 近いうちに無くなってしまう馴染(なじ)みの店の、もう食べられないかもしれない最後の一杯は、普段何も気にせず食べていたときの一杯よりも深く染みわたることとなるだろう。そして、より記憶に染み込むその一杯こそが、別れを悲しいだけでなく、過去を記憶として定着させ、未来に向かう前向きな事象に変換してくれるのである。別れの裏には出会いが待っているのだから。

 幸いにも、桜の季節と別れる前に、私たちはさまざまな形で桜を楽しむことができる。花見のように美しい桜を鑑賞するだけにとどまらず、桜餅や魚の桜蒸しなど、舌でもこの季節を味わう文化は、この出会いと別れの季節を印象深く彩ってくれるだろう。この美しい季節に、思い出としての桜を味わうのもいいものだ。   (将棋棋士 糸谷哲郎八段)

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