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【映画深層】「こどもしょくどう」子供目線で見つめる貧困

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映画「こどもしょくどう」から (C)2018「こどもしょくどう」製作委員会
映画「こどもしょくどう」から (C)2018「こどもしょくどう」製作委員会

 平仮名だけのタイトルから受けるほんわかしたイメージとは違い、厳しい現実社会を描き出している。3月23日公開の「こどもしょくどう」は、子供の貧困問題の対策として全国に広がった「子供食堂」を題材にした作品だが、映画の中に子供食堂そのものは登場しない。日向寺(ひゅうがじ)太郎監督(53)は「子供目線で描こうとしたら、必然的にこうなった」と企画の狙いについて語る。(文化部 藤井克郎)

リアルな大人たち

 子供食堂とは、貧困や家庭の問題などで満足に食べることができない子供たちに、無料、または安価で食事を提供する場所のことで、平成24年に東京都大田区にできたものが第1号とされている。支援団体の調査では現在、全国に2000カ所以上あるといわれるが、この映画では、ある地域に子供食堂ができるまでのきっかけとなる出来事をドラマに仕立てて描いている。

 小学5年生のユウト(藤本哉汰(かなた))は、食堂を営む両親(吉岡秀隆、常盤貴子)や妹と、何不自由ない生活を送っていた。一方、幼なじみのタカシ(浅川蓮(れん))は育児放棄の母親と2人暮らしで、満足に食事を与えられていないことを心配したユウトの両親は、タカシを自宅に呼んでは夕食を食べさせていた。ある日、ユウトとタカシは、河原に停車中のワゴン車で暮らすミチル(鈴木梨央(りお))とヒカル(古川凜)の姉妹と出会う。

 映画では、なぜミチルたち姉妹が車中で生活することになったかは、あまり詳しく語られない。だが彼女たちにもかつては優しい両親との幸せな暮らしがあって、誰でも貧困に陥る可能性があることを強調する。一方で、子供たちに理解があるように見えるユウトの両親も、彼らの本当の気持ちまでは思いが及ばない。

 「ユウトの両親は、どういう大人がリアリティーがあるかというところから出発している。仮に自分の子供の周りにいじめられている子がいても知らないだろうし、家にミチルやヒカルを連れてきたところで、すぐに何とかしなきゃと思うかどうか。少なくとも自分はそういう要素を持っていると思ったんです」と日向寺監督は打ち明ける。

どんな家族にも起こる

 子供食堂の題材で監督の依頼を受けたとき、最初はドキュメンタリーの企画かと思った。だがプロデューサーは、フィクションでやりましょうと言ってきた。「びっくりしましたが、すごくいい企画だと思った。それだと子供たちを自由に描けますからね」

 「百円の恋」などで知られる脚本の足立紳さんと話し合っていく中で、一つの方向性として打ち出したのは、子供目線で描くということと、「子供食堂」ができるまでの話にするというものだった。実際の「子供食堂」は子供たちのことを思って大人が始めたものであり、日向寺監督もその志に対しては強い敬意を抱いている。だが、大人目線で描くといい人たちのお話になり、どうしても決まった形になってしまう。

 「子供食堂を作ろうと思ったということはどういうことなのか。その根本を見た方がいいんじゃないか、という思いがあった。それは子供目線と一致しているし、子供から今の社会がどういうふうに見えるかということですからね」

 企画が持ち上がったのが27年の初夏で、それから約2年を費やして脚本を練り上げ、撮影に入ったのは29年の9月だった。中でも最後まで悩んだのは、ミチルとヒカルの両親をどこまで描くかということだ。

 「強く思ったのは、貧困の問題はどんな家族にでも起こりうるということ。もちろん生まれたときから貧困家庭で育っている子供というのも、今の社会の大きな問題です。しかし彼女たちの家は、そういう設定にはなっていない。映画の中でやりたかったことの一つは、見ている人にとって身近な問題だと思ってほしかったということです」

テーマよりも感情

 日本大学芸術学部を卒業した後、黒木和雄、松川八洲雄(やすお)、羽仁進といった社会派やドキュメンタリーに定評のある監督について研鑽(けんさん)を積んだ。自身も、少年犯罪が主題の「誰がために」や戦争ものの「火垂(ほた)るの墓」、人物ドキュメンタリー「生きもの-金子兜太(とうた)の世界-」など、師から受け継いだものは確実に反映されているが、「自分でどういう監督になるか規定するのはやめよう」と決めていたという。

 「監督によっては役者を自分の色に染める人もいると思う。でも私はそういうタイプじゃない。むしろ役者さんの持っている一番いい部分を引き出すにはどうしたらいいかを考えているというのに近いですね」

 その柔軟性は、映画作りの姿勢そのものにも言えるだろう。最初からテーマやメッセージを伝えたいと思って作っているわけではなく、見た人が自由に受け取ってもらえればいいと思っている。今回も子供の貧困問題を俯瞰(ふかん)でとらえるのではなく、人間をきちんと描くということに腐心した。

 「テーマではなく、感情が伝わる。それが私にとっては一番大事なことです。情報はそれはそれで大事だが、情報に血と肉をつけたものが映画だと思う。そういう意味でも、人間を描くものなんです。人間を描くから映画は面白い、ということに尽きると思います」ときっぱり言い切った。

 日向寺太郎(ひゅうがじ・たろう) 昭和40年、仙台市生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、黒木和雄、松川八洲雄、羽仁進の各監督に師事する。平成17年、「誰がために」で劇映画を初監督。主演の浅野忠信が毎日映画コンクールで男優主演賞を受賞するなど、高い評価を得た。ほかに、20年「火垂るの墓」、25年「爆心 長崎の空」の劇映画のほか、21年「生きもの-金子兜太の世界-」、26年「魂のリアリズム 画家 野田弘志」のドキュメンタリーと幅広く手がける。

 「こどもしょくどう」は、3月23日から岩波ホール(東京都千代田区)、名演小劇場(名古屋市東区)、MOVIX仙台(仙台市太白区)、MOVIX利府(宮城県利府町)、4月5日からテアトル梅田(大阪市北区)、6日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)、12日から神戸国際松竹(神戸市中央区)、20日から京都シネマ(京都市下京区)などで順次公開。

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