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「明るい大人が必要」杉真理のポップス哲学

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「僕にとっての(ビートルズの)『イエスタデイ』(のような代表曲)は、まだ、これから」と意欲がつきない“ポップスのマエストロ”杉真理(石井健撮影)
「僕にとっての(ビートルズの)『イエスタデイ』(のような代表曲)は、まだ、これから」と意欲がつきない“ポップスのマエストロ”杉真理(石井健撮影)

 こんなにもキラキラとまぶしくて温かい音楽を作っているのは、世界中で、もうこの人しかいない。シンガー・ソングライターの杉真理(まさみち)(64)。真理と書いて「まさみち」。その音楽人生は40年を超えたが、最新のアルバム「MUSIC LIFE(ミュージック・ライフ)」も、変わらずどこまでも明るい。そこには、「明るく楽しく生きている大人がいるべきだ」という強い信念があった。(文化部 石井健)

大滝詠一

 杉が注目されたのは、大滝詠一(1948~2013年)のアルバム「ナイアガラ・トライアングル Vol.2」(昭和57年)に参加してからだろう。大滝と若手2人が、それぞれ楽曲を持ち寄って録音する企画作品で、「同Vol.1」(51年)には山下達郎(66)と伊藤銀次(68)が参加した。

 杉によると、56年、「当時売れていなかった5人のシンガー・ソングライターを売り出すライブ」が催された東京都新宿区のライブハウスに大滝が乗り込んできて「ナイアガラ・トライアングルの第2弾を作る」と宣言。その場にいた杉と佐野元春(62)を共作者として指名。会場にいる人々に「みなさん、いかがでしょう?」と問いかけた。

 「全員が拍手ですよ。『いかがでしょう』と問われると、日本人は反射的に手をたたく。速やかに制作に入りたかった大滝さんは、その場でレコード会社もマネジメント会社も了承した、という既成事実を作りたかった」と杉はにらんでいる。

 同年に出ていた大滝のアルバム「A LONG VACATION」が大ヒットした余韻もあり、「トライアングル」も売れた。

竹内まりや

 杉は、慶応大在学中の52年に「マリ&レッドストライプス」というバンドでレコードデビュー。だが、翌53年、2作目のアルバムを出してすぐ、風邪をこじらせ急性髄膜炎で入院。その後、自宅での休養を余儀なくされた。「もう、音楽の世界には戻れないのかな」と悩んだ。この間に杉のレコードにコーラスで参加した大学の後輩、竹内まりや(63)がソロ歌手としてデビューした。

 後輩に先を越されたなどといじましいことは、みじんも考えないのが、杉らしさだ。休養しながら竹内のデビューアルバムのために作曲した。CMソングの仕事も舞い込んだ。シンガーが取れた「ソングライター」としての鍛錬の期間になり、石川さゆりによるCMソング「ウイスキーが、お好きでしょ」(平成2年)などに結実する。

 昭和55年、杉は完全復帰を果たす。そして翌56年、ライブハウスで大滝の突然の指名を受けることになる。

大人の責任

 「あの休養期間があって、もう好きなことしかやるまいと決めた」

 好きなこと。杉が一貫して作り続けているのはポップスだ。「ポップスの巨匠」などと呼ばれる。ポップスと呼ばれる音楽を定義することは難しいが、杉の作風は、例えばビートルズ時代のポール・マッカートニー(76)に似ている。歌詞や世界観に一定の陰りがあっても、仕上がりはあくまで明朗であり続ける。

 それに比べると最近の流行歌は身辺の悩みの解決策を探ってもっと真剣な調子だったり、励ましの言葉を掛け合うようだったりする楽曲が少なくない。

 「流行歌は常に若者の“等身大”の音楽ですが、僕らの頃は少し背伸びをして、大人への憧れを歌った。今の子供たちは、身の回りの現実を見つめている。同じ等身大でも、焦点を当てているものが違うのかもしれません」

 2月27日に出した新作「MUSIC LIFE」も杉流を貫いて明るい。亡くなった知人を思うなど年輪を刻んだ歌詞はある。が、音楽自体はラテン風のリズムを取り入れて、ますますにぎやかで、おおらかだ。

 「明るく楽しく生きてやる。それが、大人の責任だと思うんですよね」。そして、そうあり続けたいという。

 デビューから42年。新作には、長男、未来(みらい)(27)がドラム奏者として録音に参加している。親子初共演。録音は別々だったが、そこに竹内まりやがコーラスを加えた曲もある。病気で休養し、竹内のために曲を書いていた頃の自分が知ったら腰を抜かすだろうと照れる。そして、あの病気の後は、曲折もなく、録音とライブをこつこつと、しかし途切れることなく続けてきた。作った歌は600曲。うち300曲は他人に提供した。

 「好きな音楽を作り続けている。幸い、“作曲の泉”が枯れてしまうようなこともない。僕が、世界で一番幸せな音楽家でしょうね。でなければ、こんなに明るい内容の作品は作れません」

杉真理(すぎ・まさみち) 昭和29年、福岡市出身。慶応大学在学中の52年、マリ&レッド・ストライプとしてレコードデビュー。53年、風邪が原因の急性髄膜炎で休養。55年に個人として再デビュー。57年、大滝詠一の「ナイアガラ・トライアングルVol.2」に参加。以降、自己名義のほか、須藤薫、松尾清憲ら大勢の音楽仲間たちとさまざまな共同名義でも作品を発表。また、山口百恵、松田聖子らへ曲を提供するなど作曲家としても活躍している。

「MUSIC LIFE」(ユニバーサルミュージック 税込み3240円) 40周年記念作と銘打つが、実際にはもうデビュー42年。「40周年に完成が間に合わなかった」と笑う。「音楽人生」といった意味の題名をつけた理由として、「もしも、ここで死んでしまっても代表作になるようなものを作ろうと思った、シンプルで、でも意味があるような題名。大見えを切るような題名」と説明する。

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