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【映画深層】高揚感は「ボヘミアン」超え 福島舞台の「盆唄」

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ドキュメンタリー映画「盆唄」から (C)2018テレコムスタッフ
ドキュメンタリー映画「盆唄」から (C)2018テレコムスタッフ

 映画の力、音楽の力をまざまざと実感した。2月15日公開の「盆唄」は、原発事故で住民がちりぢりになった福島県双葉町(ふたばまち)に伝わる盆踊りをモチーフに、ふるさととは何かを突きつけるドキュメンタリーだ。手がけたのは、「ナビィの恋」など沖縄を拠点に活動する中江裕司監督(58)。ラストは大ヒット中の「ボヘミアン・ラプソディ」を凌駕(りょうが)するほどの高揚感が押し寄せるが、「ただ心を揺さぶっていくような、そんな編集にトライしてみようと思った」と打ち明ける。

「盆踊り、すげえ」

 盆唄すなわち盆踊りの音楽に、こんなに魂に訴えかけてくる力強さがあるとは、失礼ながら思ってもみなかった。それくらい、この映画の音楽は見る者を圧倒する。

 「僕も最初はちょっとなめていた。でも撮っているうちに、盆踊り、すげえ、と思った。100年も200年も日本の中で歌い継がれ、みんな熱狂してきたわけですからね。時間の中でもまれ、研ぎ澄まされてきた。実はすごいんです」と中江監督も認める。

 映画の舞台になっている双葉町は、平成23年の東日本大震災で甚大な被害を受けた。事故を起こした福島第一原発のおひざ元で、今もほぼ全域が帰還困難区域に指定されている。

 住民は福島県の内外で避難生活を余儀なくされているが、そんな一人、横山久勝さんは、かつて電気工事店を経営するかたわら、自ら太鼓を作り、地元に伝わる「双葉盆唄」を守り続けてきた。だが、住民がばらばらになった今では、その保存も難しい。頭を悩ませていた横山さんに、ハワイの日系人社会で100年以上も守られてきたフクシマオンドの情報がもたらされる。

 映画は震災から4年後の27年、横山さんたちがハワイを訪れるところから始まる。日系人の人たちに「双葉盆唄」を伝え、フクシマオンドのようにずっと守ってもらいたいと考えたのだ。

 「最初は、横山さんがハワイに行くから、何か撮りませんか、みたいな話だった。でも1年目は、僕は行っていない。『とりあえず』撮ってくれないかといわれたので頭に来て、『とりあえず』は撮れないよと、別のスタッフに行ってもらった」と中江監督は苦笑する。

魂は双葉に

 だが横山さんと避難先の福島県本宮市で初めて会ったとき、これは映画にすべきだと確信した。それくらい横山さんの中から熱い気持ちがあふれ出ていた。

 「ドキュメンタリーは自分がほれた人を撮るべきだと思っている。横山さんには人間的な魅力を強く感じた。双葉に一時帰宅した後避難先に戻る際、『自分の魂は双葉に置いてきている』と揺れる感情を正直に口にする姿に接して、この人は素晴らしいと思ったんです」

 こうして横山さんをはじめ、盆唄を歌い継いできた双葉の人々に密着。翌年には、「双葉盆唄」を何とか残したいと再びハワイを訪れた横山さんたちと日系人らとの交流をカメラに収めたほか、双葉盆唄のルーツが富山県にあることを知り、集団移民の物語をアニメーションにするなど、幅広い表現で映画にしていった。

 スタッフとは「ドキュメンタリーは撮り始めるのは簡単だが、終わるのは大変だよ」と話していて、10年かかることも覚悟していたが、ついにそのきっかけが訪れる。双葉の盆唄は地区ごとに特色があり、やぐらの上でその演奏を競い合うのが祭りのハイライトだった。このやぐらの競演を、震災後初めて復活させることになった。29年夏のことだ。

情を撮る

 「横山さんは競演を全部記録したいとおっしゃった。8台のカメラを持ち込んで撮った映像は、2時間半くらいあります」と中江監督。

 横山さんらが言うには、2時間も演奏し続けると、踊っている人たちの脳を揺さぶって、みんなの気持ちが一つになるのだという。「それを目指して演奏しているんだとおっしゃる。映画でもそれができないかなと思って…」。説明は一切省いて、盆唄の競演だけが延々と流れるクライマックスが生まれた。

 中江監督の作品は、これまでも「白百合クラブ東京へ行く」(15年)といった音楽ドキュメンタリーのほか、フィクションでも「ナビィの恋」(11年)や「恋しくて」(19年)など、音楽が重要な要素となっている。「考えたら歌っている人ばかり撮っている」と笑うが、必然のことだった。

 「映画って情を撮るものだと思う。愛とか情とかしか映らない。音楽はすごく情が湧き出るものなんです。だから撮るんでしょうね」

 音楽と同様、映画の力も信じている。それは娯楽だからなのではないか、と中江監督は指摘する。

 「この映画も娯楽にしなくてはいけないと思っていた。双葉のつらい状況を見せて、みなさんにも責任があるんですよ、というだけで映画館を出すわけにはいかない。何らかの道筋を示さないと、娯楽にはなりえない。それは40年住んでいる沖縄から学んだ。戦争で肉親の誰かは死んでいるという状況があって、食べるものもないのに、終戦直後からお芝居や民謡に何万人もの人が集まった。やっぱり娯楽って大事だなと思っています」(文化部 藤井克郎)

 中江裕司(なかえ・ゆうじ) 昭和35年、京都市生まれ。琉球大学農学部に進学して沖縄に住み始める。平成4年、オムニバス映画「パイナップル・ツアーズ」の一編を監督してデビュー。11年の単独の長編映画「ナビィの恋」は、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に選出されるなど高い評価を受ける。ほかに「ホテル・ハイビスカス」(14年)、「恋しくて」(19年)、「真夏の夜の夢」(21年)の劇映画のほか、ドキュメンタリー映画の「白百合クラブ東京へ行く」(15年)、「40歳問題」(20年)など幅広く手がける。17年には那覇市内に映画館「桜坂劇場」をオープンし、映画上映のほかライブや市民講座を企画するなど、沖縄文化を発信し続けている。

 「盆唄」は、2月15日からテアトル新宿(東京都新宿区)、フォーラム福島(福島市曽根田町)、まちポレいわき(福島県いわき市)、22日からテアトル梅田(大阪市北区)、23日からシネマ・ジャック&ベティ(横浜市中区)、名演小劇場(名古屋市東区)、京都シネマ(京都市下京区)、3月8日からシネ・リーブル神戸(神戸市中央区)、横川シネマ(広島市西区)、MOVIE ONやまがた(山形市嶋北)、9日からシネマテークたかさき(群馬県高崎市)、シネモンド(金沢市香林坊)、シアターキノ(札幌市中央区)、桜坂劇場(那覇市牧志)など順次公開。

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