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【ニッポンの議論】天守再建の是非

天守再建、賛成派のNPO法人「江戸城天守を再建する会」の初鹿彰信専務理事(右)と反対派の千田嘉博・奈良大教授
天守再建、賛成派のNPO法人「江戸城天守を再建する会」の初鹿彰信専務理事(右)と反対派の千田嘉博・奈良大教授

 「お城ブーム」が続く中、各地で城のシンボル「天守」を復元する動きが相次いでいる。木造復元をめざす名古屋城(名古屋市)や鉄筋コンクリート造りでの外観復元を進める尼崎城(兵庫県尼崎市)など、観光の起爆剤や町のシンボルとしての効用が期待される一方で、歴史考証の正確性や文化財としての整備の面から批判もある。NPO法人江戸城天守を再建する会の初鹿彰信専務理事と城郭考古学者の千田嘉博奈良大教授に意見を聞いた。

美意識の象徴、観光にも貢献

 賛成派 NPO法人「江戸城天守を再建する会」の初鹿彰信専務理事

 --江戸城(東京都千代田区)天守の再建を求めているが、その理由は

 「日本の伝統文化の価値を、将来に伝えていくシンボルを作りたい。現在、世界的に自国のアイデンティティーを確固たるものにしないと取り残される時代になっている。日本が持つ歴史観や、自然を大切にする美意識や知恵、技術は世界に誇れるもの。世界最高の木造技術で、日本最大の木造建築である江戸城天守を首都東京に再建すれば、日本の良さを未来へ伝える最良のシンボルとなり、現在の国民が後世に贈る資産になるだろう。時期的にも昨年の明治150年、今年の改元、来年の東京五輪と国家的イベントが続いて日本の歴史への関心が高まっており、また世界の目が東京に集まる状況もあって、絶好のタイミングだ」

 --どんな効果が期待できるか

 「江戸城天守台は皇居内にあるので、一般観光地のように直接集客して喧噪(けんそう)の場とするわけにはいかない。かつて経済効果は1千億円という試算を出したこともあったが、現在は会として具体的数字を出すことは控え、文化的価値に主眼を置いている。ただ、訪日外国人客の誘致をはじめ、観光全体に貢献ができるのは間違いない」

 --予算など、現実性はあるのか

 「再建に関わる総事業費は現在、400億~500億円程度と見積もっている。民間資金を呼び水にして、多様な資金調達を考えれば十分可能だ。当面のロードマップとしては、今年および来年にかけ国民世論を十分に喚起した上で政官民への折衝活動を進め、再来年に事業会社を設立できればと思っている」

 --現存天守台の上に天守が建ったことはなく、考証上の問題がある

 「たしかに歴史的事実としては明暦の大火(1657年)で寛永度天守が焼けた後、天守台のみ新たに築かれたが、天守は財政難のため再建されなかった。しかし当時から天守再建の計画は持ち上がっており、詳細な天守の図面も残っている。建てるための考証は十分だ。当時の人々が本来なら建て直したかったものを造るのだから、再建と呼んでもいいのではないか」

 --なぜ木造にこだわるのか

 「将来に残す文化財としては木造に意味があり、職人の雇用という面でも伝統文化の継承になるし、きちんとメンテナンスすれば1千年以上もつ」

 --天守復元など全国で今、文化財の修復のあり方が問われている

 「文化財は、世の中に文化的な価値をもたらすことに意味がある。(江戸城の)現状のように天守台だけ残しておくよりも、その上に天守を復元した方が文化的な価値は大きくなるのではないか。それぞれの地域で天守復元の動きがあるのは結構なこと。町のシンボルになることは間違いない」

 初鹿彰信(はつしか・あきのぶ) 昭和16年、京都市生まれ。慶応大卒業後、富士ゼロックスに入社し、同社常務取締役などを歴任。平成26年にNPO法人江戸城天守を再建する会に入会し、29年から専務理事を務める。

石垣や堀など全体計画必要

 反対派 千田嘉博・奈良大教授

 --なぜ今、城の整備が相次ぐのか

 「いくつもの要因が重なっているが、一つ言えるのは現在のお城ブームだ。ファン層は若い女性も含んだ広い層におよび、しかも単に天守を見るだけでなく、竹田城(兵庫県朝来(あさご)市)のように石垣しか残っていない城にも多くの人が注目し始めた。城の方でも昔と比べて観光拠点として集客を工夫するようになり、天守をはじめとした建物の復元が各地で進むことになった」

 --近年の天守再建の問題点は

 「城の整備とは天守を建て直すだけではない。石垣や堀、あるいは門などをどう整備するかという全体計画なしに、天守だけ建てても城の復元にはならない。大洲(おおず)城(愛媛県大洲市)は木造で天守を復元したが、本丸までの自動車道をつくるために発掘調査で判明した門を埋めてしまった。城の整備としては課題が残る。重要なのは歴史性を踏まえた整備で、天守を原位置に原寸大で建て直す『立体復元』はその一手段。立体復元だけを目的として、石垣や門などの整備はおざなりにした計画が多いのはとても残念だ」

 --観光面からすると、とにかく天守が必要だとの声もあるが

 「きちんと考証せず行き当たりばったりで進めてしまうと、天守と石垣の年代がちぐはぐになるなどして、歴史上どこにもなかった城が建つ恐れがある。たとえば江戸城でも、今の天守台の上に天守が建てられたことはない。それでは復元ではなく、創作だ。さらに木造は一度造ってしまうと半永久的にメンテナンスする必要があり、将来への負担もかかる。一時の熱狂で不正確な城を造っていいのか、再考すべきだ」

 --戦後に各地で建てられた鉄筋コンクリート天守の耐用年数を機に、木造で建て直そうとする運動が盛んだ

 「たとえば和歌山城(和歌山市)でも現天守を壊して木造再建を検討しているが、現在の博物館機能はどうするのかという問題が生じている。博物館機能やエレベーターなどのことを考えると、熊本城(熊本市)のように戦後天守を修理して使い続けるのも立派な判断だ。木造復元なら正しく、鉄筋なら悪いという話ではない」

 --名古屋城(名古屋市)では復元天守へのエレベーター設置が論争になったが、復元の厳密性はどこまで

 「今われわれが城を整備するのは、歴史や文化を体感できる場所としてであり、軍事施設として再現しようとしているわけではない。史実に忠実なのは大前提だが、健常者に限らずすべての人が利用できるよう計らうのもまた当然のことで、当時存在しなかったという理由でエレベーターを付けないのはおかしい。史跡とは露天の博物館のようなもの。だから税金を投入し、皆が楽しめる場所にする必要がある」

 千田嘉博(せんだ・よしひろ) 昭和38年、愛知県生まれ。大阪大学博士(文学)。国立歴史民俗博物館助教授などを経て現職。平成26~28年、奈良大学長。27年、浜田青陵賞受賞。著書は『織豊系城郭の形成』など多数。

(文化部 磨井慎吾)

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