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「奉納百景」 寺社の奇妙な奉納物から見えるもの

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小松沢観音(山形県村山市)のムカサリ絵馬=小嶋独観著「奉納百景」(駒草出版)から
小松沢観音(山形県村山市)のムカサリ絵馬=小嶋独観著「奉納百景」(駒草出版)から

 平成最後の初詣。神社仏閣は参拝客でにぎわったが、各地には不可思議なものがひっそりと奉納されている神社仏閣もある。独特な情景の数々を集めた書籍「奉納百景-神様にどうしても伝えたい願い」(駒草出版、1500円+税)が出版された。

死者の婚礼

 著者は、小嶋独観(こじま・どっかん)さん(51)。寺めぐりの趣味が高じ、変わり種の社寺を紹介するウェブサイト「珍寺大道場」を運営してかれこれ20年。自営業の傍ら神社仏閣を専門とする著述家の仕事もしている。

 同書は、小嶋さんが各地の神社仏閣で目撃した奇妙な奉納物についてまとめた。15年前、山形県村山市の寺院で「ムカサリ絵馬」と出合ったのがきっかけ。

 ムカサリ絵馬は、未婚で亡くなった若い死者のために、あの世で独り身では寂しいだろうと、架空の相手との婚礼を描いた絵や写真を奉納する風習で、山形市や天童市など山形県の村山地方の寺院に明治時代から伝わっている。

 華やかだが、はかない雰囲気が漂う絵や写真が、小さなお堂を埋め尽くす。絵は、婚礼パンフから切り抜いた花嫁との合成写真になったり、和装からドレスとタキシード姿になったりと変化しながら、今も続いている。現実離れした光景には驚かされるが、同時に子供を亡くした親の思いが痛いほど伝わってくる。

 これらは、寺社の呼びかけで貼られたわけではない。小嶋さんは、「『奉納』という下から上への目線を照らすことで、人々が何を望んで信仰するのか、上からの布教だけでない宗教のもう一つの側面が浮かび上がってくるのではと思った」と話す。以来、民俗学の文献や市町村史なども調べて、変わった奉納を訪ね歩くようになった。

本堂に垂れ下がる黒髪とギプス

 大分県豊後高田市の椿堂・遍照院(椿大師)は、弘法大師が水を湧き出させたという伝説が残る寺。小嶋さんは、この地に祭られる弘法大師像を目当てに訪れた。そこで目にしたのは、本堂正面の軒先に下がっているギプスやコルセット、松葉づえ、そして約3千人分とされる大量の女性の毛髪。同寺の霊水を飲んで病気が治った人が、お礼に奉納したもので、屋外にさらされた黒髪は、バサバサになって熊の毛皮のようだ。

 「誰かが始めて、いいことがあったと噂が広がり次々と奉納されるようになったのでしょう。寺は奉納を引き受けざるを得ない、苦笑いだと思う」(小嶋さん)

 福島県檜枝岐村(ひのえまたむら)の縁切り・縁結びスポット「橋場のばんば」では、小さな社の左右に、全長2メートルにおよぶ巨大な糸切りハサミが立てられている。左手の切れ味良さそうなハサミが縁切り祈願。右手のハサミはさびて、しかも鎖が巻き付けられている。つまり「切れない」。縁結びを祈願するものだ。

 無数に奉納されたハサミも同様で、縁結びを祈願するハサミは針金でグルグル巻きにされている。本来さびたハサミだったが、今のハサミはステンレス製でさびないのだ。巻き加減に、奉納者の切れまいとする執念がこもる。

 熊本市の弓削(ゆげ)神宮には、男女の性器を模した木製の奉納物が大量に積み上げられている。どれもびっしりとくぎを打ち込まれ、見るからに痛そうだ。浮気封じを祈願した奉納だという。

 「パートナーの浮気を疑っている人が、夜こっそり作っているのでしょうか。漠然と願うだけでなく、物として奉納するなんて普通は考えつかない。さまざまな願いごとに対応するならわしがあるところに、日本の民俗社会の奥深さを感じます」(小嶋さん)

 いずれも、真面目な信仰心の裏返しだが、思いが強すぎて端から見るとユーモラスな情景が生まれてしまうところに小嶋さんは共感を覚えるという。

 「業とか欲とかが、物としてむき出しになっているのを見ると、鬼気迫るものがある。人間の業の深さに気持ちが動く」

 最近はプライバシーに配慮して、絵馬に保護シートが貼られていることもあるが、「他人が何を願っているのか分からないと、奉納しても今ひとつ盛り上がらない。同じ悩みを持った人を発見して癒やされる、集団セラピーのような効果を狙って、あえて人目に付くように奉納するのでは」。

有名神社でも

 小嶋さんは、タイや台湾、香港などアジアの寺も訪ねているが、奉納物の多彩さは日本が飛び抜けているという。

 「日本では神仏と人間との距離がすごく近い。死生観にしても、人間が生きている世界に寄り添って、死後の世界が存在しているという感覚が、奉納にも反映している」

 同書で紹介されているのは、無名の寺社が多いが、日本三大稲荷の一つ、愛知県の豊川稲荷の赤いよだれかけをつけた狐像を集めた霊狐塚(れいこづか)のように、有名神社にも奇抜な奉納風景がある。

 小嶋さんは「一見ぎょっとしても裏側にあるのはシンプルな願いごと。大勢ではなく、1人で行ってみて、自分の感想を持ってほしい」と話している。(文化部 永井優子)

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