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【映画深層】「宵闇真珠」消えゆく香港を映像にとどめる

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香港映画「宵闇真珠」から (C)Pica Pica Media
香港映画「宵闇真珠」から (C)Pica Pica Media

 謙虚さを学んだとほほ笑む。12月15日公開の香港・マレーシア・日本合作映画「宵闇真珠」は、香港の新鋭、ジェニー・シュン監督(34)が、名カメラマンとして知られるクリストファー・ドイル監督(66)と共同で手がけた幻想譚だ。記憶の中にある香港を美しい映像でよみがえらせたシュン監督は「見慣れた香港の風景ではないかもしれないが、特別な場所が失われていくということに共感してもらえれば」と期待を口にする。

ひなびた漁村の風景

 映画の舞台は、香港に残る最後の漁村という設定の架空の村。この村に父親と2人で住む16歳の少女(アンジェラ・ユン)は、日の光を浴びると死んでしまう奇病に冒されており、透き通るような白い肌から「ホワイトガール」と呼ばれていた。ある日、村を見下ろす高台にある廃屋に、1人の男(オダギリジョー)が住みつく。廃屋に設置された撮影装置「カメラ・オブスクラ」で外の風景を眺めていた男は、海岸の岩場にたたずむホワイトガールを見つけるが…。

 大がかりな装置で薄暗い部屋の壁に映像を投射させるこのカメラ・オブスクラをはじめ、ポータブルカセットプレーヤーなどレトロなアイテムが作品を彩る。あたりは再開発の波が押し寄せ、この廃屋も取り壊しが計画されているが、そんな消えていくものへの憧れが映画の核になっている。

 「香港がどんどん失われていっていると言っても、ほとんどの人は信じないと思う。でも香港は250年ほど前まではひなびた漁村で、独特の方言を話していた。私にとっての香港はこのような風景が残っている町で、そんな失われていく香港の姿をおとぎ話のように描こうと思ったんです」と、公開を前に来日したシュン監督は説明する。

美しさを見いだす視線

 中国人の家系に生まれたシュン監督だが、香港のアメリカンスクールに通い、広東語よりも英語の方が得意だった。自宅には近所のどこよりも早くホームシアターがあり、いろんな人が映画を見に集まってきて、まるで映画の「ニュー・シネマ・パラダイス」のような場所だったという。

 18歳で渡米し、アメリカの大学で比較文学や政治科学、東アジア文化などを学ぶが、映画のクラスで見たある作品に心を奪われた。香港の名匠、ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」(2000年)で、それまでに見たことのない美しい香港が映っていた。

 「いろんな場所に美しさを見いだしている視線にとても感動して、映画の可能性を教えてもらった。私も映画作りに携わりたいと思うようになりました」

 この撮影を手がけていたのが、クリストファー・ドイルだった。オーストラリア生まれのドイルは、商船員にカウボーイ、医者もどきなど各地で職業を転々とした後、中国語圏で映画関係の仕事に就き、エドワード・ヤン監督の「海辺の一日」(1983年)、ウォン監督の「欲望の翼」(90年)や「恋する惑星」(94年)、チェン・カイコー監督の「花の影」(96年)などの撮影で名をはせる。98年には浅野忠信主演の「KUJAKU 孔雀」で監督デビューも果たした。

 ドイルとはちょうど10年前に知り合ったというシュン監督だが、出会いのきっかけについて聞くと、「その話は長くなるので、どこかバーでじっくり話しましょう」とはぐらかす。

 「よく若い監督から、クリストファーと仕事をするのはどんな感じか聞かれるが、いつも『気をつけないと人生を変えられてしまうわよ』と答えている。何年も一つの企画を進めるのは孤独な作業なので、そういうときに相談に乗ってくれたりアイデアを聞いてくれたりするのは貴重な存在でした。映画は決して一人ではできませんからね」

心で動く本物の役者

 事実、シュン監督がこの企画を実現するまでは、多くの時間を費やしている。脚本だけで5年をかけ、さらにキャスティングにも苦労した。特に主役のホワイトガールは、どうしても香港の少女に演じてもらいたかったが、最近は香港映画自体、製作本数が少ない上に、新しい俳優がなかなか出てきていない。しかも若い子はみんな日焼けしていて、監督がイメージする色白の少女はいなかった。

 「何度目かのオーディションでアンジェラ・ユンが現れて台本を読んだとき、初めて映画が立ち上がったと感じた」と打ち明ける。

 これと比べると、廃屋に住みつく謎の男役のオダギリジョーは、ずっと簡単だったという。最も好きな日本人俳優の一人で、一緒に映画を作ってくれてとても光栄に感じている。

 「ジョーはすごく謙虚な人で、新しいことに挑戦したいと言って、ホテルもないような小さな漁村での撮影なのに快く参加してくれた。彼のように心で動くのが本物の役者なんだと思います」と感謝する。

 「映画を作るということは、単なる自分の夢を実現するだけでなく、もっと大きな世界を描かないといけない。そんなことを、映画にかかわった多くの人に教わりました」(文化部 藤井克郎)

 ジェニー・シュン(Jenny Suen) 1983年、香港生まれ。米ペンシルベニア大学で比較文学、政治科学、東アジア文化などを学ぶ。クリストファー・ドイルが監督、撮影を手がけた「Hong Kong Trilogy:Preschooled Preoccupied Preposterous」(2015年)では、プロデューサーのほか、編集や一部演出も務めた。「宵闇真珠」で長編監督デビューを果たす。

 「宵闇真珠」は、12月15日からシアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)、伏見ミリオン座(名古屋市)、29日からテアトル梅田(大阪市)のほか、シネプラザサントムーン(静岡県清水町)、シネマ・クレール丸の内(岡山市)、桜坂劇場(那覇市)など全国順次公開。

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