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【高論卓説】米副大統領の「対中政策演説」 武力を伴わない実質的な“宣戦布告” 板谷敏彦氏

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 今から100年前の1918(大正7)年11月は、ドイツと米国の間に休戦協定が結ばれて4年余り続いた第一次世界大戦が終結した月である。第一次世界大戦の開戦原因は一様ではないが、その主因の一つに、当時の覇権国家・英国に対して、後発工業国であるドイツが経済、軍事面で迫りつつあったことが挙げられる。「ツキュディデスの罠(わな)」と呼ばれる覇権交代期の緊張である。

 英独両国は20世紀初頭の戦略兵器である戦艦の建艦競争に入り、当時海軍大臣だったチャーチルは「英国にとって海軍は必需品だが、ドイツにはぜいたく品である」と演説しドイツ皇帝やドイツ民衆をおおいに刺激した。

 両国は経済的に相互依存がとても強かったので、財界人や知識人はまさか戦争になるとは考えていなかった。ところがオーストリア皇帝の暗殺事件が複雑に組み合った同盟関係という歯車を回転させて、やがて世界を巻き込む戦争へと落とし込んだのである。

 その当時の米国と中国の関係は第1の時代と呼ばれる。列強諸国が中国を利権で切り刻んだ時代だが、当時の米国は門戸開放政策をもって列強に加わらず、その後も共同でファシズム(日本のこと)と戦った時代だ。

 またこれに続く第2の時代とは、中国が共産化して以降の米ソ対立の冷戦時代のことで米中は関係を絶ったのである。去る10月4日、ペンス米副大統領はハドソン研究所で「対中政策演説」という挑発的な演説をし、その後のアジア太平洋経済協力会議(APEC)をはじめとするアジア歴訪でも同じことを繰り返し述べている。

 米国は1978年の中国による市場開放政策以降、いつの日か中国も経済的に豊かになれば、民主主義が広まって、米国を中心とする西欧社会と同じような価値観を持ち始めるに違いないと静かに見守ってきた。しかしペンス副大統領はこうした米中関係における第3の時代は終わりだと明言したのだ。

 中国は今年の3月これまで2期10年だった国家主席の任期を撤廃し、独裁国家へ転換したかのようである。

 また「一帯一路」政策は債務を利用した途上国への植民地的抑圧のように見えるし、米国から見ればむしろ中国はこうあってほしいと考える台湾の外交的孤立を推進し、民主主義的側面では宗教弾圧が加速しているとみている。

 経済面では共産党の影響力は次第に企業へと浸透し国家資本主義の様相を強め、関税、為替操作、外国企業の技術の強制移転、知的財産の盗用、任意の産業補助金などやりたい放題であると指摘した。 

 ペンス副大統領は共和党の中でも対中強硬派だが、この演説の中身は専門領域が広く挙党態勢で練り上げられたものであって、トランプ大統領特有のブラフではなく、米国の意志だと理解されている。

 G20(20カ国・地域)首脳会議では、習近平国家主席とトランプ大統領の会談が予想されている。幸い現代では第一次世界大戦のように両国が武力行使をしてもろくな結果にならないことは広く理解されている。

 そのためにこの予想される覇権交代期を楽観視する向きもある。しかしペンス演説が示すものは、米国は公平な交易さえすれば覇権交代などを起こらないと考えているのであって、米国の譲歩の水準はひどく下がっていることに注意が必要だ。この演説は武力を伴わないだけで現代社会における実質的な宣戦布告なのである。

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 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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