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【映画深層】“むかつきパワー”が原動力 「真っ赤な星」井樫彩監督

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映画「真っ赤な星」から (C)「真っ赤な星」製作委員会
映画「真っ赤な星」から (C)「真っ赤な星」製作委員会

 21歳で天下のカンヌ国際映画祭に選ばれた経歴はだてではなかった。12月1日公開の「真っ赤な星」は、注目の若手映画作家、井樫(いがし)彩監督(22)が初めて挑んだ長編で、社会性を帯びた重いテーマの中にみずみずしい感性が光る意欲作だ。「いずれ年齢に注目されなくなるわけで、そこまでにちゃんと土台を築かないといけないなという気持ちです」と冷静に語る。

美しさで切なさが増す

 主人公の陽(小松未来(みく))は、山に囲まれた田舎町に住む14歳。家庭にも学校にも居場所がない陽は、けがで入院中、優しく接してくれた看護師の弥生(桜井ユキ)に心を許していたが、ある日突然、弥生が病院を辞めたことを知る。それから1年。陽は、体を売る商売をしている女性が出没するとされる山道で、弥生を見かける。

 性的虐待などの被害に遭っている女性同士が傷をなめ合う展開は暗く重いが、一方で緑の森と青い空に真っ赤なパラグライダーが溶け込むコントラストや、天文台の屋根が開いて2人のシルエット越しに満天の星がまたたくアングルなど、独創的な映像センスが光る。

 「私自身、主人公の感情が情景描写や主人公の動きの中で表現されている映画が好きなので、できるだけそういうふうにしたいなと思っていました」と井樫監督は打ち明ける。

 最初はストーリーだけで脚本を構築していたが、視覚的にも攻めないといけないと思って編み出したのがパラグライダーだった。井樫監督にはセオリーがあって、映画には肉体に通じるか自然に通じるかが必要だと思っている。肉体なら踊る、走る、泳ぐ、歩くなどがあり、自然なら空や海、燃えさかる火などで主人公の気持ちを表現する。

 「パラグライダーがうまくいくんじゃないか、と思って。そこからですね、映画が動き出したのは。主人公たちのつらい状況に反するように、目の前にある景色は美しい方が、切なさは増すと思うんです」

カンヌで見えたボス

 北海道伊達市で育った小学生時代は、絵を描くのが好きな少女だった。キスシーンを描きたくて、鼻と鼻がぶつからずにキスをするにはどうしたらいいか研究を重ね、部屋いっぱいにキスの絵が散らばっていたこともあったという。映画も好きで、中学、高校になるとレンタル店に通うようになるが、将来の夢が特にあったわけではない。

 「高校の進路指導の先生に、『これならいいかもな、というのはないの?』と聞かれて『映画をやろうかな』と言ったんです。『だったら東京に行きなさい』と先生に言われて、『わかりました』と出てきました」

 東放学園映画専門学校に入って実習で短編を撮るようになり、卒業制作で手がけたのが、川に飛び込むことでストレスを解消する女子高校生が主人公の「溶ける」だった。この作品は若手監督の登竜門であるぴあフィルムフェスティバルや、なら国際映画祭などで受賞を重ね、世界最高峰の映画祭、カンヌ国際映画祭の学生映画を対象にしたシネフォンダシオン部門に選出される。21歳でのカンヌ正式出品は、日本人では歴代最年少だった。

 「カンヌは、聞いていたのと行ってからとは全然違った」と話す井樫監督は、さまざまなことに「むかつく」(しゃくにさわる)たちで、メインのコンペティション部門のレッドカーペットを、大きく背中があいたドレス姿の女優が歩いているのをテラスから見下ろしていたら、なぜかむかついてきたと告白する。

 「漫画で言えば、田舎の神童といわれていた男の子が、上のステージに行ったらめっちゃすごいボスが出てきて、その上にもまたボスがいて、という感じですかね。それって日本にいたら絶対に思わない。そのボスが見えないから」

見てもらってこそ完成

 こうした“むかつきパワー”やマイナスエネルギーが、創作の原動力になってきたことは確かだ。「楽しいことは大体ダメですね。つらい、切ない、もう無理、となったらストックしておいて、ネタにしようという感じです」と笑う。

 「だから映画として完成したときに、自分のことが対象化されて救われたような気持ちになる。最初はそんなことは考えずにやっていたが、『溶ける』がいろいろな映画祭で上映されるようになり、自分の個人的なことを描いたのに、共感してくれたり泣いたりしてくれる人たちを見て、きちんと表現すれば伝わるんだなということがわかりました」

 初の長編となる「真っ赤な星」も、9月末から英ロンドンで開かれた欧州最大規模の自主映画の祭典、レインダンス映画祭に出品。涙を流す観客を間近に見て「国や人種が違っても、思うことは一緒だと改めて感じた」という。

 「結局、見てもらわないと完成しない。自分はこう思って撮ったけど、見た人には違う解釈が生まれるかもしれない。それも含めて完成なのかなと思う。だから公開しないことには始まらないという感じですね」と劇場公開を前に期待感を口にした。(文化部 藤井克郎)

 井樫彩(いがし・あや) 平成8年、北海道生まれ。東放学園映画専門学校の卒業制作で撮った「溶ける」(28年)が、東京学生映画祭の準グランプリをはじめ、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードの審査員特別賞、なら国際映画祭のゴールデンKOJIKA賞を受賞。昨年のカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に日本人歴代最年少で招待される。長編第1作「真っ赤な星」に続いて、来年2月公開のオムニバス映画「21世紀の女の子」の1編を手がけている。

 「真っ赤な星」は、12月1日からテアトル新宿(東京都)で公開のほか、シネ・リーブル梅田(大阪市)、シネマスコーレ(名古屋市)など全国で順次公開。

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