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【iRONNA発】さくらももこ 『ちびまる子ちゃん』は永遠の謎である 鳥越皓之氏

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【iRONNA発】
さくらももこ 『ちびまる子ちゃん』は永遠の謎である 鳥越皓之氏

 すなわち、人類は化石から推して200~300人のグループを組んでいたのだろう、という答えだ。「百人もいたとしたら、五匹ぐらいライオンが出てきたって、みんなで石を投げたりしたら、ライオンは逃げちゃいますよね。(中略)大事なことは、父親ではなくて、近所のよそのおじさんが子どもに言うんです。家族の中だけで育っていくんじゃなくて、近所のいろんなおじさんたちの中で育っていくということを、どうも人間という動物はやっていたらしい」

 何のことはない、『ちびまる子ちゃん』の世界は、人類が生き残るために20万年も前につくった「家族と近所の群れ集団=コミュニティー」がそのまま基盤としてあるのではないか。何の違和感もなく作品に溶け込めるのは、人類が20万年も続けてきたコミュニティー社会を、もちろん無意識的にだが、さくらさんが素直に丁寧に写し取ってきたからではないだろうか。

 「超スマート社会」

 そもそも、まる子をはじめ、登場人物は優等生過ぎず、失敗したり面倒くさがったりする憎めない等身大なキャラクターで描かれている。いずれも子供の目線であり、その本心に自分を重ねやすく、笑って見守るような楽しみ方もできる。まる子の思いつきや行動は今の子供たちにも共感できる一方で、私たちが子供の頃に当時の大人たちをあきれさせたこととも似ている。

 そして、その大人たち自身もきっと同じ経験を繰り返してきたに違いない。こうした20万年の伝統を持つコミュニティーの人間関係、愛情や反目、尊敬や軽蔑、深い理解や誤解、それらを含めたさまざまな人間関係を、とても生き生きと濃密に、さくらさんは描いてきた。

 現在、政府は「Society5・0=超スマート社会」を来るべき社会として構想している。それは孤立している私たち一人一人の人間を、インターネットを通じてのサイバー空間の世界で結びつけようという構想である。

 ただ、これは作品で描かれた1970年代の社会とは大きく異なる。濃密なコミュニティーはそこに存在しない。代わって効率の良さが突出している。果たして、どのような将来の社会構想を私たちは描けばよいのであろうか。

 おばあさんになったさくらさんに、サイバー空間を利用しながらも人間の息吹の感じられる社会をぜひとも描いてほしかった。

                  

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 【プロフィル】鳥越皓之(とりごえ・ひろゆき)

 大手前大学長。昭和19年、沖縄県生まれ。関西学院大教授、筑波大教授、早稲田大教授を経て、平成27年から現職。専門は社会学、社会史、民俗学、環境問題、地域計画。著書に『地域自治会の研究』(ミネルヴァ書房)、『「サザエさん」的コミュニティの法則』(NHK出版)など多数。

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