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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】〈34〉「怠惰が幸福」で何が悪い

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【モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら】
〈34〉「怠惰が幸福」で何が悪い

温度計は37度を表示した今年の夏(酒巻俊介撮影) 温度計は37度を表示した今年の夏(酒巻俊介撮影)

日本の夏は地獄の季節

 台風、地震、津波以上に気になるのは、夏の炎暑と湿気だ。

 フランスには「ボルドーの3M」が存在する。『随想録』のモンテーニュ(1533~92年)、『法の精神』を著した啓蒙(けいもう)主義思想家のモンテスキュー(1689~1755年)、怖い女性の話『テレーズ・デスケルウ』を書いてノーベル文学賞を受けた作家のモーリアック(1885~1970年)のことだ。ちなみにモンテーニュとモンテスキューはともにボルドー高等法院で働いている。

 そのモンテスキューは『法の精神』第14編「風土の性質との関係における法について」の中でこんなことを書いている。

 《風土の暑さは、肉体が完全に無力となるほどに、はなはだしいものとなりうるだろう。そのときには、衰弱は精神自体にも及ぶ。好奇心も、気高い行いも、寛大な感情もない。精神の傾向はまったく受動的である。そこでは怠惰が幸福である》

 哲学者のニーチェ(1844~1900年)は、発狂する直前に書いた自伝的著作『この人を見よ』で乾燥した空気の効用について述べている。

 《ひとつ比べ合わせてみて頂(いただ)きたい。才気に富んだ人々が住んでいたかまたは現に住んでいる土地、機智と洗練と悪意が一体となって幸福の要素を成していたような土地、天才がほとんど必然的に住みついていたような土地、等々を。どれもみな空気が素晴らしく乾燥した土地ばかりだ》

 こう書いて、その代表例としてパリ、プロヴァンス、フィレンツェ、エルサレム、アテネの名を挙げる。

 2人の言葉にはヨーロッパ人の傲慢と偏見が見て取れるが、倫理学者の和辻哲郎さんは、昭和10年に発表した『風土』の中で《湿気は最も堪え難く、また最も防ぎ難いものである》と書き、英語学者・評論家の渡部昇一さんは51年の『知的生活の方法』で《ヨーロッパの連中には、勉強してもかなわない。連中の一年は、日本人の一年より三カ月長い》と、日本を含むモンスーン域の気候のハンディを素直に認めている。

 それでも、渡部さんが同書を発表した当時、日本列島の住人が炎暑と湿気に悩まされるのは3カ月ですんだ。エアコンがなくとも、窓を開ければなんとか寝ることはできた。そして9月になれば秋はきちんと訪れた。竹内まりやが「SEPTEMBER(セプテンバー)」で歌っているように。今ではより獰猛(どうもう)になった炎暑と湿気の季節は、少なくとも4カ月(2カ月が夏で2カ月は地獄)は続くようになり、そのぶん秋は短くなった。東京・神宮外苑のイチョウ並木がきれいに色付くのは11月下旬だ。

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