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【矢板明夫の中国点描】習近平時代の「フェイクニュース」 うのみにした悲劇の歴史、繰り返すことないように

「博鰲アジアフォーラム」年次総会の式典で演説を終え、笑みを見せる中国の習近平国家主席=10日、中国海南省(共同)
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 最近、中国国営中央テレビ(CCTV)などが制作したプロパガンダ映画「すごいぞ、わが国」のDVDを見て、何度も苦笑した。上映時間約90分の映画は習近平指導部1期目(2012~17年)の“輝かしい業績”がテーマだ。

 しかし映画は突っ込みどころ満載だった。日本やフランスなどの技術を多く導入した高速鉄道を、中国が「独自に開発した」と強調。江沢民時代から力を入れてきた宇宙開発事業の成果を、習近平国家主席の正しい指導によるものと称賛していた。習氏が演説する姿や工場視察の場面などが随所にちりばめられ、習氏への個人崇拝が狙いであることは明らかだ。

 3月2日に封切られたこの映画は公務員、国有企業の従業員、学生らが動員され、約1カ月で約80億円の興行収入を得たが、共産党中央宣伝部が4月になってから突然、全国の映画館に上映禁止を通達した。

 理由は明らかにされていないが、北京の知識人らは映画の中のある場面が一因だとみている。欧米などの数カ国にほぼ独占されてきたとされるIT産業のチップを製造する技術を中国の研究者が開発に成功し、習氏がそれを褒めたたえている場面だ。

 中国を代表する通信機器大手、中興通訊(ZTE)がイランへの電子製品の不正輸出問題で米国から制裁を受けた。米国の半導体企業からチップの輸入ができなくなったため、ZTEの多くの工場が操業停止に追い込まれたことが明るみに出た。「中国はチップを独自開発した」という映画の中の触れ込みと現実との整合性がとれなくなったことが、上映禁止につながったのではないか。

 習政権発足後、言論に対する統制を強化し、事件や事故、デモなど当局にとって不都合なニュースが大きく報じられることはなくなった。その代わりに急増したのが政府の業績を宣伝する報道だ。くだんの映画のようにフェイクニュースといえるものも少なくない。

 たとえば、数年前から、沿海部の製造業の不振が続き、なかなか仕事が見つからない出稼ぎ労働者が増えていることから、当局は彼らに故郷に戻るように呼びかけている。この呼びかけに合わせるかのように、官製メディアは一斉に帰郷後の「成功例」を数多く紹介するようになった。明らかに怪しいものもある。

 たとえば、「海外留学から戻った女性学者が農村で鶏の繁殖事業を始め、大成功した」(中央テレビ)との報道があるが、これに対し「テレビで紹介されたやり方を実践するだけでは絶対に成功するはずがない」と養鶏業者らがインターネットで反論している。こうした「成功例」は極めてまれなケースか、あるいは当局による「やらせ」の可能性が指摘されている。

 北京の知識人は「都市が農村よりチャンスが多いことは常識だ。労働者たちはこうしたフェイクニュースをうのみにして、故郷に戻れば、悲惨な運命が待っているだけかもしれない」と警告した。

 六十数年前、人民日報などの党機関紙が、当時の最高指導者、毛沢東が推進した大躍進運動の成果としてでっち上げた穀物生産量を連日大々的に報道した。その結果、農民たちは農作業を放棄して鉄鋼生産などに従事したため大飢(き)饉(きん)が発生。3千万人ともされる餓死者を出した。

 習近平時代の中国で、このような悲劇が再び訪れることがないよう祈るばかりだ。(外信部次長)

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