ユッコ・ミラーさん新作「SAXONIC」日々サックスの理由
3枚の硬貨
その日から、ひたすらサックスを練習した。練習して、練習して、練習した。早朝に登校して授業までの2時間。昼休み。午後6時からの部活。世界一のサックス奏者になるのだ。理由は自分でも分からないが、決めたのだから、練習した。
高校2年生になると、もっと大勢に聴いてほしくて部活以外にも演奏の場を求めた。例えば、路上演奏。近鉄の駅を降りてすぐの場所で1人サックスを吹いた。
ある日、作業服を着た男性が「これでジュースでも買いな」。チャリン。初めてのギャラ。120円。うれしかった。100円玉と10円玉。3枚の硬貨は今も大切にとってある宝物だ。
コンテンストでも常勝。練習の成果は、着実というには驚異的な速度で実を結びはじめた。