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【月刊正論】政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

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政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供) 象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供)

 この点について元最高裁判事の園部逸夫氏と元朝日新聞編集委員の岩井克己氏は対談で次のように述べている(『週刊朝日』8月26日号)。

 岩井 戦前の天皇観を大事にする人の中には、天皇は仕事をするから天皇なのではない。何もされなくても、天皇なんだと。仕事ができなくなり、天皇や国事行為の臨時代行を置く形になっても、ずっと天皇として長生きしていただきたいという意見も出ています。

 園部 よくわかります。しかし、思うように行動できなくとも、天皇の地位にあるだけでいいということは、今日の常識として考えづらい。人は摂政や国事行為を代行する方ではなく、天皇を見ますからね。飾りか神仏のように存在するだけでいい、と唱え続けると、人間天皇についての認識を誤るのではないかと危惧します。

 岩井氏のいう「戦前の天皇観を大事にする人」とはどのような人のことを指すのか不明だが、陛下もまた「天皇は仕事をするから天皇なのではない。何もされなくても、天皇なんだ」とは考えられていないように思われる。 

天皇の「存在」と「機能」

 何度も言うようだが、陛下が天皇としての務め、戦後の象徴天皇としての務めを追求されてきたお姿は尊い。そのお務めは憲法の求める国事行為や伝統的な宮中の行事を越えて、大きく膨らんだ。それも誠実で勤勉な陛下のお人柄ゆえであろう。それらがこなせる間はいいが、ご高齢やご病気によってご負担になってきた。

 しかし、天皇としての「仕事」「役割」「機能」は全身全霊で果たさなければならないから、それができない天皇は「天皇」であってはならないという考えに、私たちが至ってはいけない。それは、天皇の地位に能力原理を持ち込むことに繋がるだろう。仕事ができる天皇が「天皇」であり、仕事ができない天皇は「天皇」たり得ず、退くべきだという認識は、血統原理によって安定させてきた天皇の地位を揺るがすことになる。

 天皇の「務め」には「存在」と「機能」の2つがある。陛下はそのうち、専ら天皇としての「機能」を重視されている。しかしだからといって私たちが、天皇たる者、その「仕事」を全身全霊で果たさなければならない、それができて初めて「天皇」たり得ると考えるのは早計である。

 陛下がビデオメッセージで触れられた「務め」とは天皇としての「機能」の面だが、その大前提には「存在」されること自体の意義がある。徹底した血統原理によって他に代わる者がいない存在として、陛下が天皇の地位に就いておられること自体に尊い意義がある。ここに仕事ができる天皇が「天皇」であり、仕事ができなくなれば「天皇」であってはならないという能力原理が持ち込まれれば、恣意が入り、天皇の地位は不安定になり争いが生ずる。伊藤博文や戦後の皇室典範の設計者の懸念はここにあり、退位・譲位を敢えて排除したのはそのためだった。

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