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【月刊正論】政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

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【月刊正論】
政府も悩む皇室「パンドラの箱」 退位・譲位の制度化がはらむ皇室の尊厳を脅かす危険性とは… 麗澤大教授・八木秀次

象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供) 象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=8月7日、皇居・御所応接室(宮内庁提供)

 「日本各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅」については、様々なご活動の中でのご訪問を指すものと思われるが、この点について陛下は特に「皇太子の時代を含め、これまで皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」と振り返っておられる。

 陛下はこのように「天皇の務め」「象徴の務め」をご自身で規定された上で、それらを全身全霊で果たすことができない天皇は「天皇」とは言えず、そうであるなら自らは退くべきでないかとのご意向をにじまされた。陛下がどれほどの強い責任感で「象徴」としての務めを果たして来られたかを示すものでもあり、尊くありがたい気持ちで一杯である。

国会も退位・譲位を議論した

 憲法や皇室典範などが示す現在の皇室制度はご生前での退位・譲位を想定していない。想定していないどころか、積極的に排除している。

 現在の皇室制度は明治時代の大日本帝国憲法や旧皇室典範(明治22年)の下での制度を基本的に継承している。明治憲法や旧皇室典範の起草を主導した伊藤博文らは、皇室の歴史を入念に研究・調査した上で、退位・譲位の慣行は皇室本来の伝統ではなく、出家を求める仏教の影響によるものであり、退位・譲位を許せば、天皇の地位が不安定になり、国家が分裂する。そして、その代表例として南北朝の混乱を挙げて、そのような混乱が生じないように退位・譲位を認めない終身在位制を確立した(伊藤博文著『皇室典範義解』、拙稿「皇室典範改正の必要はない」本誌9月号参照)。

 とりわけこの議論においては伊藤が主導し、柳原前光と井上毅による原案にあった退位・譲位の規定の削除を命じたことが知られている(明治神宮編『大日本帝国憲法制定史』サンケイ新聞社、1980年、鈴木正幸著『皇室制度-明治から戦後まで-』岩波新書、1993年、参照)。

 こうした考えは戦後の現在の憲法や皇室典範(昭和22年)にも基本的に継承された。皇室典範の制定過程において帝国議会で退位・譲位の規定を設けてはどうかとの質問がなされたが、政府は「天皇の御地位は、改正憲法の下においては、国及び国民統合の象徴となったので、政争その他諸種の面倒な事柄(人為的な工作)から超越した無色なものとする必要がある。御退位については、それをめぐって色々なわずらはしい問題を生ずる点があり、これを認めない方が適当であると考へた。而して、天皇に重大な故障のあるといふ場合には、摂政を置くことによって解決できる」(「審議経過のまとめ及び答弁メモ」、芦部信喜・高見勝利編著『日本立法資料全集1 皇室典範』信山社、1990年、所収)などと繰り返し否定した。

 そしてこれらを受けて政府はこれまでにも国会で何度も退位・譲位が認められない理由を説明してきた。

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