産経ニュース

【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(53)その生涯編・降りしきる雪

ニュース プレミアム

記事詳細

更新

【湯浅博 全体主義と闘った思想家】
独立不羈の男・河合栄治郎(53)その生涯編・降りしきる雪

前のニュース

(毎週土曜日に掲載します)

怒りの「二・二六事件」批判

 その日は、朝から雪がしきりに降っていた。河合栄治郎は大学の授業も終わったので、教授会を済ませてから、湘南海岸の旅館にこもって読書三昧を考えていた。カバンに本を詰めて大学へ向かう途中で、「いま首相官邸が襲撃されている」と、衝撃的なニュースを聞いた。

 それが、陸軍皇道派の青年将校によるクーデター未遂の「二・二六事件」であったと知るのは、だいぶ時間がたってからのことである。

 栄治郎は新橋駅からタクシーに乗り換えた。通過した和田倉門には鉄条網が張られ、銃剣を持った兵士がたっているのを見て、ことの重大さを知った。なるほど、いつの世も雪に染まる血のイメージが、日本の変革を告げる表象になっていた。

 大学内の「山上御殿」では、教授たちが昼食をとりながら朝の出来事を不安げに語り合っていた。医学部教授の話は、関係者の治療にあたったのか、事件が現実味を帯びて伝わってくる。栄治郎は降りしきる窓外の雪を眺めながら、黙って大学の行く末を考えていた(「近頃の随想」『全集第十七巻』)。

 陸軍青年将校らは「昭和維新」を掲げて1600人以上の兵を動かし、岡田啓介首相、高橋是清蔵相、斎藤実内相、渡辺錠太郎教育総監を「君側の奸(かん)」として襲撃した。人違いの岡田を除いて殺害し、鈴木貫太郎侍従長に重傷を負わせた。昭和天皇は「朕(ちん)が股肱(ここう)の臣を殺傷するは朕が首を真綿で絞めるごときもの」と、断固として鎮圧を命じた。

続きを読む

全体主義と闘った思想家・河合栄治郎のニュース

全体主義と闘った思想家・河合栄治郎の写真

  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(61)その生涯編・攻撃
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(60)その生涯編 戦火拡大
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(58)その生涯編・人民戦線事件
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(56)その生涯編・赤門人民戦線
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(52)その生涯編・孤高の戦い
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(51)その生涯編・不動の思想
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(48)その生涯編・1年ぶりの祖国
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(47)その生涯編・ソ連とドイツ
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(45)その生涯編・講演旅行
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(44)その生涯編・講演依頼
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(43)その生涯編・論争後
  • 【湯浅博 全体主義と闘った思想家】独立不羈の男・河合栄治郎(42)その生涯編・一騎打ち

「ニュース」のランキング