【湯浅博　全体主義と闘った思想家】
独立不羈の男・河合栄治郎（８）素顔知る弟子

河合栄治郎全集。全２３巻で門下生らの編集により１９６７～７０年に社会思想社から刊行された

（毎週土日に掲載します）

　「革新幻想」と闘う男たち

　１９７０（昭和４５）年の１２月、社会思想研究会理事で相模女子大教授の江上照彦が、河合栄治郎全集２３巻の別巻として『河合栄治郎伝』を刊行した。いったい素顔の河合とはどんな人物で、どうポピュリズムに背を向けて戦闘的な自由主義を貫いたのだろう。花草会は次の月例研究会に、生前の河合を知る江上を招いた。

　江上は河合家から日記などの提供を初めて受け、恩師の素顔に肉薄した。彼に解き明かされた事実は、いわば偶像破壊の一撃であった。河合が英雄的な思想家であることはもちろんのこと、ある時まではエロスの探求者であったことを掘り起こした。あまりに人間的な、理性と感性のはざまで苦悶する河合５３年の生涯であったのだ。

　『河合栄治郎全集』編集委員の経済評論家、土屋清もまた、日記を整理しているさなかに、河合の内面の葛藤を知り得た一人であった。しかし、土屋は河合の女性関係を「江上氏の才筆のもたらした罪であろうか」（土屋『エコノミスト五十年』）とやんわり否定している。恩師の思想に邪念が入るのを嫌う土屋と、師の私生活を含む全人間像を描こうとした作家、江上との違いであろう。