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【郷土偉人列伝】官僚のあるべき姿 敗れてなお言うべきことは言う 占領軍とのパイプ役努めた外交官・鈴木九萬

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【郷土偉人列伝】
官僚のあるべき姿 敗れてなお言うべきことは言う 占領軍とのパイプ役努めた外交官・鈴木九萬

横浜終戦連絡事務局長時代の鈴木九萬公使(家族提供)

 終戦から間もない昭和20年9月、占領軍が進駐した横浜で、国家のギリギリの“主権”を死守しようと米軍に対峙した官僚たちのドラマがあった。日本に直接軍政を敷き、英語を公用語にして米軍票B円を法定通貨にする-というとんでもない布告案が突きつけられ、外務、大蔵の幹部が捨て身の交渉で阻止したのである。中心となったのは、占領期に終戦連絡横浜事務局長を務めた外交官、鈴木九萬(ただかつ)。敗れてなお言うべきことは言う毅然とした態度は、70年の月日を経てなお、官僚のあるべき姿を問いかける。 (渡辺浩生)

 鈴木の遺族のもとから、本人が米側との生々しいやりとりを再現した自筆のメモ類が見つかった。鈴木は80歳の昭和51年、米軍票撤回までの1カ月弱の交渉劇を描いたドキュメンタリードラマ「B円ヲ阻止セヨ!」(制作テレビマンユニオン、放送フジテレビ)に本人役で出演していた。メモは、鈴木が自身の台詞の参考に作成したもので、番組の脚本とともに保管されていた。それらをもとに、官僚らの「国を守る戦い」を再現すると-。

 20年8月下旬、占領軍進駐を控えた大蔵省の懸念は、軍隊が占領地などで発行する疑似紙幣である軍票の発行にあった。戦中の占領地統治の経験から、軍票乱発によるインフレ激化を恐れたためだ。第一次大戦後の高額な戦時賠償でハイパーインフレに陥ったドイツの先例も脅えさせた。

 「通貨発行の主権をなんとしてでも守りたい」。津島寿一蔵相は久保文蔵外資局長に全力で阻止に努めるよう指示。久保の発案で、外務省はマニラのマッカーサー総司令部宛てに、進駐後は軍票ではなく日本銀行券の使用を求める旨を打電したが、回答はなかった。

 官邸に急報

  「お前、ひとつ明日から横浜へ行って、総司令部を相手に折衝せよ」

 重光葵外相からこう命じられ、横浜に赴任したのが鈴木である。30日、厚木に降り立って横浜に直行したマッカーサー連合国軍最高司令官を宿泊先のホテル・ニューグランド(横浜市中区山下町)で出迎えた。

 横浜沖のミズーリ号艦上で降伏文書調印式が行われた9月2日、「寛容」の精神をにじませたマッカーサー演説で日本側に安堵感が漂ったのもつかの間の午後4時ごろ、横浜税関に置かれた総司令部に、鈴木が呼び出された。

 マーシャル参謀次長から「軍票B円3億円分を部隊に配布しており、この件について明朝布告を公布する予定だ」と通告されたのである。

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