少年野球に指導者資格 ハラスメント撲滅の第一歩になるか - 産経ニュース

少年野球に指導者資格 ハラスメント撲滅の第一歩になるか

野球界初となるU12(12歳以下)の指導者資格の導入について会見する全日本野球協会の山中正竹会長(中央)
 野球界にも「指導者資格」が導入される。全日本野球協会(BFJ)がU12(12歳以下)の指導者を対象に「公認野球指導者 基礎1U-12」の指導資格を付与できる体制を整えた。サッカーのようにトップから子供らの年代まで「ピラミッド型」に組織化されていない野球界初の共通資格。競技人口の減少対策も兼ね、指導現場での体罰・暴力、ハラスメントの根絶に焦点を当てた。現時点では任意資格だが、将来的な義務化の検討もあり得るとする。
 国内の野球は所属団体によって軟式、硬式の違いがあり、学童チームや中学のクラブ活動のほか、ボーイズリーグやリトルシニアなど多くの組織が裾野を支える。「プロアマの壁」もあり、トップのプロ野球まで1つのピラミッドが形成されておらず、選手は小中学、高校、大学と年代やカテゴリーが変わるごとに、さまざまな指導者の元でプレーを余儀なくされる。
 高校野球に代表されるトーナメント形式の大会で勝ち上がるには、目先の勝利が優先される傾向にある。このため長期的な選手育成の視点が欠如するという懸念や、団体を移行した際に指導方針が変わるために一貫性のある指導が行われないなどの課題が挙げられていた。
 こうした中、野球界では2016年5月にプロアマ合同の「日本野球協議会」を設立し、「普及・振興委員会」で指導者資格の導入を検討。「普及に向けて、最も大事な時期」(BFJの山中正竹会長)というU12で、最初の指導者資格の導入が決まった。今後は21年3月にU15対象の資格を設ける方針で、U18を対象にした制度についても日本高校野球連盟と協議を行っているという。
 資格を取得するための講習内容は投球、捕球、打撃などの実技指導のほか、スポーツマンシップ、体罰・暴力・ハラスメントの根絶、チームマネジメント、指導者に必要な医学的知識などが含まれている。登録料は4年間で1万円。現時点では任意資格だが、将来的には1チームに1人の取得を義務付けることも検討するという。
 異なる所属団体や現場の指導者に配慮。「指導者の独自性や工夫を阻害しない」(BFJ)ように、教え方よりもスポーツマンシップの精神や指導者による体罰・暴力、ハラスメント根絶を重要カリキュラムの軸に置いた。
 山中会長は「簡単に言えば、相手や他者を尊重することの理解を深めてもらう。試合では相手チーム、審判、ルールを尊重し、野球そのものを尊重するということ。残念ながら、一部では(試合中に)相手チームへの誹謗(ひぼう)中傷を耳にすることもある。スポーツマンシップは、グランド内にとどまらず、将来において、一般社会での信頼を高めることにつながる。技術向上や目先の勝利だけでなく、このような人材育成を行っていきたい」と導入の意図を語る。
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 実際、指導の現場では何が問題になっているのか。
 フェイスブックでいち早く、資格取得に意欲を見せた異色の元スラッガーがいる。根鈴雄次さん(47)。高校時代に一度は不登校になり、単位制高校を経て、山中会長が監督を務めていた法大へ進学。その後は強打を武器に米大リーグを目指して渡米し、引退するまでマイナーリーグや国内外の独立リーグを渡り歩いた経歴の持ち主だ。
 現在は横浜市内で野球スクール「根鈴道場」を開設。「ムーンショット(月に向かって打て)」を合言葉に豪快な打撃を教える。道場に通う小中学生は地元のチームでプレーしながら個人レッスンを受ける。
 根鈴氏は「最近はどのチームでも暴力的な指導はなくなってきている」と話す一方、危惧するのは、指導者の指導方針に従わない子供たちに対する処遇だという。実際、根鈴氏の打撃論を「アッパースイングでダメ」と否定する指導者が「根鈴道場に通う子供は…」などと入団に難色を示すことがあるという。
 日本ではかねてからバットを上から振り下ろすダウンスイングが良いとされてきた。根鈴氏は「打撃論や指導方法よりも、大事なことは多くの選択肢の中から、子供たちが自分で考えて試行錯誤して練習すること。大人の指導者に求められるのは、すぐに答えを与えずに見守る忍耐力だ」と強調。その上で「指導者が自らの考えに従わないなら『チームに入れない』『試合に使わない』というのは、見えないハラスメントで最も悪質。昔と違って、野球人口が減少している。理不尽な扱いを受けるなら、野球をやめてサッカーやバスケットボールという選択肢がある。同じ競技でパイを奪い合っている場合ではない」と訴える。
 BFJが掲げる基本的なスタンスは「プレーヤー・ファースト」。野球界の裾野には、指導者の問題に限らず、頭髪の丸刈りや保護者の「お茶当番制」など野球離れにつながる要因が山積する。資格制度の導入は裾野変革のきっかけになれるのだろうか。(運動部 田中充)