【ビジネス解読】認知症になったら… 不安解消に企業が解決策を提供 - 産経ニュース

【ビジネス解読】認知症になったら… 不安解消に企業が解決策を提供

基調講演を行う、桜美林大学老年学総合研究所の鈴木隆雄氏=11月6日、東京都中央区
 超高齢社会の進展に伴って認知症への関心が高まる中、発症時の不安への備えや予防に注目したビジネスが広がっている。発症時のお金に関する不安を解消できる「家族信託」の普及が進むほか、食品メーカーや損害保険会社が予防に関する商品・サービスに触手を伸ばす。
 自分の両親が認知症になった場合、「本人の意思確認ができない」として、子供は両親名義の預金口座からの現金の引き出しや、不動産の売却・購入、保険の解約請求などができない。親の介護費用などの経済的負担を「親の資産」で賄おうとしても、資産を利用できない。
 不動産販売・管理の日本財託(東京都新宿区)は、本人の判断能力が失われる前に家族と不動産・金銭の信託契約を結ぶ手法「家族信託」に着目。約3年前から家族信託のコンサルティング事業を始めた。信託財産の不動産の管理や売却、資産の組み替えを支援する。毎月1回実施するセミナーの延べ参加人数は1000人を超えた。11月末現在、122人が家族信託契約を結んでいる。
 働き盛りの世代にとって、親の介護は人生設計に大きく影響するが、認知症への備えはあまりされていないのが現状だ。
 朝日生命保険が11月に発表した、「40~50代が親に関して心配に思うこと」(複数回答)のアンケートによると、「健康状態」の65.0%と最も多く、次いで「認知症にならないか」が49.2%だった。
 親が認知症になった際の介護費用などの経済的負担について、43.9%が「親の資産で賄う」と答えている。しかし、親が現在住んでいる住まいについて、いざというときの処分や相続などについて、54.7%が「話し合ったことはない」と回答。具体的に何をしたらよいかわからない、といった不安が浮き彫りになった。
 日本財託の横手彰太・アセットプランニング課シニアマネージャーは「家族信託を検討するうちに親子の会話が増え、絆が深まったケースもある」と話し、潜在的ニーズの伸びしろに自信を深める。
 みずほ信託銀行は9月から、認知症になった場合でも自分のお金を円滑に生活費や医療費などに使用できる特約付き金銭信託「認知症サポート信託」の取り扱いを始めた。こうした動きは今後も増えていく可能性がある。
 一方で、予防の観点から認知症問題に取り組む動きも始まっている。
 食品大手の明治と桜美林大などの共同研究グループは、軽度認知障害の高齢者において、カマンベールチーズ(白カビ発酵チーズ)の摂取が認知機能との関連が報告されているBDNF(脳由来神経栄養因子)を上昇させることを確認したと、11月6日に発表した。世界で初めてヒトを対象とした試験で、カマンベールチーズ摂取による認知症予防の可能性を示唆した。
 共同研究グループの金憲経氏(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所)は「認知機能の衰えを感じ始める前の40代、50代くらいの方がカマンベールチーズを摂取することで、将来の不安を軽減できるかもしれない」と指摘した。
 また、SOMPOホールディングスは認知症に関する社会的課題に注目し、認知機能低下の予防から認知症ケアまで、幅広くサポートする商品・サービスを提供している。
 このほか、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターは、認知機能の低下を抑制するために、運動と計算やしりとりなどの認知トレーニングを組み合わせた予防プログラムを提唱。これにスポーツクラブが関心を寄せている。
 認知症の関連市場は広がっている。今年6月に閣議決定された認知症施策推進大綱によると、認知症の人の数は平成30年に500万人を超え、65歳以上の約7人に1人が認知症と見込まれている。調査会社、シード・プランニングによると、軽度認知症障害の関連サービスの市場は、令和7年に平成29年の3倍となる600億円と予測する。
 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる、「健康寿命」への国民の関心は高まっている。認知症になる前の「備え」をめぐる企業の競争はさらに過熱しそうだ。(経済本部 鈴木正行)