【太陽光発電は人を幸せにするか】(36)地権者も知らぬうちにIDを取得される - 産経ニュース

【太陽光発電は人を幸せにするか】(36)地権者も知らぬうちにIDを取得される

スマートグリッドホームが売電権(ID)を取得したのは、東京電力ホールディングス沼田事業所の敷地内だった=2月、群馬県沼田市薄根町(三枝玄太郎撮影)
スマートグリッドホームが売電権(ID)を取得していた事務所の跡地。この土地と東京電力ホールディングス沼田事業所にまたがってIDを取得していたという=2月、群馬県沼田市薄根町(三枝玄太郎撮影)
敷地内で売電権(ID)が取得されていた布団工場=2月、前橋市粕川町(三枝玄太郎撮影)
スマートグリッドホームが売電権(ID)を取得していた別荘地。太陽光発電所が建設された形跡はなかった=2月、群馬県長野原町大字応桑(三枝玄太郎撮影)
 「太陽光発電が32円くらいに下がる辺りまで、うちにもしょっちゅう変な人が来ていましたよ。IDを買わないかってね」
 平成29年4月、FIT法が改正された。それまでは事業を計画している段階で設備認定(ID番号)を取得できた。この制度を利用して全国数千カ所のIDを大量に取得した業者もいる。
 「言ってみれば、犯罪にまではならない地面師って感じですかね。勝手に土地まで売買された訳ではないんだけれど、自分の土地を使って太陽光発電所の売電権(ID)を取得したり、売買していたら、気分が良いものじゃないよね」と言うと、この男性は残ったアイスコーヒーを飲み干した。
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 前橋市粕川町。道路に面した大きな工場があった。夕刻になっていたからか、工場は稼働していなかったが、事務所の前に乗用車が2台、止まっていた。
 ノックすると、中年の男性が顔を見せた。
 「ここの土地にスマートグリッドホーム(東京都新宿区)という会社が太陽光発電の設備認定を受けているのですが」と聞くと、「いや、うちは布団を販売している会社で、太陽光発電なんていう話は全く聞いていません」と首をひねった。
 スマート社はこうしたIDを大量に取得している。だが、その大部分は着工しておらず、一部は転売されたものもあるとみられる。このケースのように、地権者も知らないうちにIDを取得している例はかなりあるとみられる。
 群馬県沼田市を訪れたときは奇怪なことが起きた。
 同社がIDを所有している沼田市薄根町にある住所を訪ねると、そこは東京電力ホールディングス沼田事業所だったのだ。
 「うちの敷地でスマートグリッドホームという会社が太陽光発電?」
 対応した若い社員は、話を聞くや笑い出した。
 あとで東京電力が電話をかけて説明してくれた。「隣にもう使っていない無人の事務所があります。そことうちの敷地の一部を使ってスマート社さんはIDを取得していたようです」
 スマート社は取材に応じないので、意図は分からないが、同社のホームページ(HP)には「利回り保証・国が20年間42円、36円権利を確定している内容は、わが社のみの特権」(原文のまま)と高らかにうたっている。
 スマート社は低圧分割案件を多数所有していることでも業界では有名だ。
 低圧分割案件とは、例えば500キロワットの太陽光発電所を造るとする。それを1区画を50キロワット以下に小分けすると、主任技術者を置かなくて済む、キュービクル式高圧受電設備(キュービクル)を設置しなくてよくなる、など高圧のままにしておくよりも、価格を100~数百万円抑えることができる。
 だが、経済産業省・資源エネルギー庁は平成26年4月からこうした低圧に小分けされた土地でも周囲と一団の土地と見なされる場合、低圧分割を禁止することを決定した。
 さらに業者側にとって厳しいのは、仮に電力会社に着工申し込みを受領してもらったとしても、1年以内に運転を開始しないといけない。それを超過すると、超過分だけ売電期間が短縮される見込み。
 また、平成28年8月より前に売電権(ID)を電力会社から得たものについては、太陽光発電所に送電線をつなげる工事(電力連系工事)の着工申し込みを今年3月までに得ていない業者は、スマート社のように1キロワット当たり40円の売電権を持っていても失効してしまう。(29年1月12日までに事業計画認定を申請し、2月16日までに接続同意書類を添付した案件については、認定が30年4月以降になっても29年度価格の適用を認める方針となった)
 経済産業省・資源エネルギー庁が厳しい対応を取り始めたことで、こうした「幽霊ID」の存在は逓減していくものとみられる。
 こうした実態のないID(未稼働の太陽光発電所)が横行すると、送電線の空き枠がなくなり、これが新規参入を妨げているとの指摘もあったことは前回も書いた。
 こうした送電線の争奪戦が激しくなったことで、太陽光発電業者が入り乱れている自治体がある。
 福島県西郷村だ。西郷村羽太地区では中国の大手国営電力会社「上海電力」が大規模太陽光発電所の建設を計画していた。特に上海電力は中国企業でも太陽光発電所建設に熱心で、日本の各地で建設計画が進行中だ。
 だが、そのなかのひとつである約132ヘクタールに及ぶ大規模太陽光発電所(メガソーラー)の計画は、今も着工に至っていない。
 「福島県警に詐欺容疑で逮捕されたことがある人物が訪問してきて、土地を売ってくれと声をかけて歩いてきた。でも、いまだに着工するという話は聞かないね」(西郷村の地元住民)
 「福島第一原発の事故があった福島県は、太陽光発電に理解があり、送電線の確保も容易だというので、いろいろな業者が入り込んだのです」とさきの住民は話す。太陽光発電バブルは、この地では現在も進行中なのだ。(おわり)
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 個人的な事情なのだが、西郷村の詳しい経緯を書くのは、また別の機会に譲ろうと思う。今までお読み頂きありがとうございました。(WEB編集チーム 三枝玄太郎)