【近ごろ都に流行るもの】「高卒で働く」(上)求人数激増、労働力不足で再び“金の卵”に - 産経ニュース

【近ごろ都に流行るもの】「高卒で働く」(上)求人数激増、労働力不足で再び“金の卵”に

高校生を求める企業で満席だった採用セミナー=昨年12月、東京都港区
高校生を求める企業が集まった「JOBドラフト」の採用セミナー=昨年12月、東京都港区
高卒2年目で採用担当に抜擢された中田紗耶加さん。パワーポイントを使って資料を作成する=東京都中央区のケーワンテック
高卒2年目で採用担当に抜擢された中田紗耶加さん。パワーポイントを使って資料を作成する=東京都中央区のケーワンテック
高卒2年目で採用担当に抜擢された中田紗耶加さん。パワーポイントを使って資料を作成する=東京都中央区のケーワンテック
高卒2年目で採用担当に抜擢された中田紗耶加さん(左)。上司の後藤寛幸さんも温かく見守る=東京都中央区のケーワンテック
高卒2年目で採用担当に抜擢された中田紗耶加さん(左)。上司の後藤寛幸さんも温かく見守る=東京都中央区のケーワンテック
 少子高齢化により働き手が減るなか、高校生に注目する企業が増えている。厚生労働省によると高校生求人数はこの5年で約2倍に伸び、就活高校生とのマッチングサービスを利用する企業が急増中だ。採用難の大卒枠を高卒に移行する動きもある。早く社会に出ようという若者を支援育成することは、定年延長や女性活躍と並ぶ労働力不足の解決策となり、“移民”受け入れなどの前に社会全体で考えたいテーマだ。今回は上下2回に分けて、現代の“金の卵”採用・就職事情をリポートする。(重松明子)
 「今年度からSE・プログラマーの高卒新卒採用を始めたところ、3人の枠に19人もの応募が集まった。情報処理を専門に学んでいたり、普通科でもパソコンが好きでプログラミングへの興味が強いなど、能力の高そうな生徒が採れました。今春入社予定の男女3人は全員高卒です」
 ウェブシステム開発会社、SIA(東京都港区)の採用担当、茂木美奈子マネジャーが手応えを語った。これまでの大卒・専門卒では「求人数に応募が達しなかった」といい、成果は雲泥の差だ。
 同社は、昨年末に都内で開かれた高校生就活情報サイト「JOBドラフト」の企業向け採用セミナーに参加していた。会場内は高校生とマッチングしたい78社94人の担当者で満席状態。サイトを運営する採用支援会社「ジンジブ」(東京都港区)の担当者は「初めての企業も多いので、ノウハウを基礎からレクチャーします」と話す。
 厚労省によると、平成30年11月末現在の高卒新卒者の求人倍率は全国平均2・71倍だが、東京都に限ると8・32倍に跳ね上がる。生徒1人に延べ8社がラブコールを送っている状況。まるで、かつて中・高卒で社会に出た若者たちを高度成長の担い手として呼んだ「金の卵」の復活を思わせる。
 「大都市圏ほど生徒を採るのが厳しい。地方の高校生も視野に入れて」と講師が呼びかけると、企業側から「今どきの子たちが住んでくれる寮とは、どんなものになりますか?」と、真剣な質問が上がっていた。
 JOBドラフトの契約企業はサービスを開始した平成27年度に127社だったが、29年度372社、30年度は667社と飛躍的に増えている。事業を統括する中溝祐介部長(34)は、「費用をかけても、しっかり採用・育成したいという企業さんの熱意を感じる」。
 料金は会社案内・求人情報の掲載とコンサルティング料などを合わせて年間50万円から。2月には掲載のみ、あるいは総合的な「高卒採用パック」など、企業事情に応じてメニューを広げるという。
 しかし、せっかく多額のコストをかけて入社させても、すぐに辞められては元も子もない。「社会人としての伸びしろを引き出してあげるためには、入社後の支援と教育が非常に重要。定着のカギになります」と中溝部長。
 同社では、中小企業が独自で行うことが難しかった高卒者向けの社会人基礎力養成研修や、仕事の目標設定や悩みの受け皿、社外同期づくりなどを請け負う有料サービスも新たに4月からスタートさせる予定だ。
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 高卒者の現役進学率が70・7%(平成30年度の学校基本調査)にのぼるなか、就職を選ぶ生徒は少数派だ。実際の働きぶりも見てみたい。
 東京都中央区にあるビルメンテナンス会社「ケーワンテック」本社を訪ねると、パソコンを前にガイダンス用の資料を制作する採用担当、入社3年目の中田紗耶加さん(20)の姿があった。同社のビルメンテナンス業務は窓清掃など高所に特化。中田さんは「身長が低いので高い所に憧れていました」と快活に笑った。
 女性初の作業員として入社したが、2年目で採用部門に大抜擢(ばってき)。コミュニケーション力、国語力、パソコンが得意なことなどが評価され、高校回りのほか、大学生向けの説明会でも堂々と前に出て業務をアピールしている。
 「『彼女(中田さん)は高卒入社で、皆さんよりも年下です』と伝えると、『えっ!?』という反応が返ってくる。それくらいしっかりしています。仕事ぶりは誠実で、女性らしい細やかな気付きもありがたい」と上司の後藤寛幸課長(32)は太鼓判を押す。中田さんの活躍の甲斐あって、今春は大卒・高卒計8人(うち女性2人)と目標数の採用を達成した。
 中田さんは事務仕事と並行して、作業着で現場に出るのが大好きだという。「40階建てビルの屋上に初めて上がらせてもらったときの景色、感動は忘れられない。窓ガラスを拭いていると中で働いている人から手を振られたり、下で見上げている人から『スゴイね』と声をかけられたりして、メチャメチャ楽しい」
 典型的な男性社会だが残業は少なく、ぜひ女性にも挑戦してほしいという。「就職先選びは、自分がその業務が好きで関心があるということが大切ですが、職場の良好な人間関係が大前提となる。会社見学で、社員の方々の雰囲気や社風が自分に合うかを良く見極めてほしい。私は結婚しても子供ができても、ここで働き続けたいです」
 目標は、早く管理職になって現場に女性チームを作り、そのリーダーになることだ。後藤課長は「大卒と比べても4年間の経験の差は大きい。この数年で課長になれるように必要な指導をしていきたい」と語る。同社では高卒社員の給与や待遇が不利にならないよう、制度改正を検討している。
 埼玉の実家を出て、1人暮らしも始めた中田さん。「苦手な(机上の)勉強を続けるよりも、早く自分でお金を稼いで自立したいと考えていました。高卒で就職した選択は間違っていなかったと思います」。また、笑顔が弾けた。