ロープ降下訓練に“想定外”の早朝30分走…記者が陸自宇都宮駐屯地で「生活体験」 - 産経ニュース

ロープ降下訓練に“想定外”の早朝30分走…記者が陸自宇都宮駐屯地で「生活体験」

高さ7メートルからのリペリング訓練にのぞむ(自衛隊広報撮影)
高さ7メートルからのリペリング訓練にのぞむ記者(宇都宮駐屯地撮影)
高さ7メートルからのリペリング訓練にのぞむ(自衛隊広報撮影)
 災害が発生した被災地で汗を流す自衛隊に対する国民の信頼はかつてないほど高い。しかし、いざというときには、専守防衛の範囲内で戦場に向かう命がけの仕事という側面は隠れがちだ。「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め…」と誓うことで入隊を認められる自衛隊員がどのような訓練を行い、生活しているのか-。宇都宮市茂原の陸上自衛隊宇都宮駐屯地で実施された隊内生活体験に参加した。
降下中に宙返り
 「気を付けー」「縦隊、前に進め!」
 第12特科隊第3中隊に配属され、貸与された迷彩の戦闘服に着替えると、基本教練で、きびきびとした号令が響き渡った。基本的な姿勢や隊列の組み方、移動を繰り返し、身に染みこませる。隊列の緩みは部隊全体の緩みにつながるため、わずかな動きにも気を抜けない。戦闘服は赤外線に反応しにくくするための加工がされており、風通しが悪くとにかく暑い。他の隊員は涼しい顔だが、流れる汗はとめどない。
 人命救助法の指導を受け、午後はリペリング訓練。いわゆる降下訓練の一つで、ロープを腰に巻きつけ、カラビナを使い、高所から垂れ下がっている別のロープにつなげる。指導隊員から点検事項を次々と命じられ、「環(かん)かけよーし」「準備よーし」と安全確認後に、右手でロープを操り、背中から降下。高さ7メートルの場所からの降下では、2度空中で宙返りし、操作の難しさで高さの恐怖を感じる暇もなかった。
 実際はヘリコプターから地上への降下の際に必要な技術。指導隊員は「ヘリに乗ると音もうるさいし、興奮で高さの恐怖は感じない。どんなに危険な場所であろうと行けといわれれば行く」とさらりとしたものだったが、覚悟の一端を感じた。災害派遣資材の取り扱いを学び、35号隊舎に若い隊員3人と宿泊した。
4時40分の非常呼集
 翌朝午前4時40分ごろ。突然、隊員の一人の携帯がなり、「非常呼集!」と部屋の電気がつけられた。日光市で大規模土砂災害が発生したという想定での非常呼集訓練だったが、台風13号が接近していたこともあり、「タイミングの悪い時にあたったな」と、訓練だとは気づかないまま、続々と連絡を受けて集まる隊員の波にのまれそうになる。初動部隊は災害発生の連絡を受け、指揮所を設置するなどの時間も入れ、約45分で駐屯地を出発。指導隊員の一人が「『自分の子供が大けがをしたときに、救急車が応答してくれなかったらどう思うか』と上官に言われたことがある。自衛隊が即時に動けないわけにはいかない」と語っていたのを思い出した。
 ただ、意表を突く早朝訓練が終わった後の隊列を組んでの30分走は、想定外の想定外だった。そもそも6時起床のはずだったし、事前の体験内容の確認事項には記されていない訓練だが、非常事態を想定すれば有無はない。重い戦闘靴ということもあり、何とかついていったが、筋肉痛は今も続いている。
 その後、第12特科隊の主要装備である口径155ミリのFH70操砲訓練を見学。空砲にもかかわらず、その発射音のすさまじさに圧倒された。
最後の砦という覚悟
 訓練の内容もさることながら、規律を厳しく守る隊員一人一人の動き、心構えに改めて驚かされた。志望動機などを尋ねた際、多くの隊員が「親に入隊する意志を伝えた際に泣かれた」という。政治的な状況がどうであろうと、「自分たちは行けといわれれば行くだけだ」と一様に口をそろえる。もちろん不平不満が全くないわけではないだろう。ただ、「事に臨んでは」私心を消し、規律を順守する覚悟は肌で感じた。それは、“最後の砦”として国民の負託に応える覚悟でもある。(楠城泰介)