「絶好調」化学業界に“黒船”襲来 米シェール革命で日本は一転苦境か

経済インサイド
ダウ・デュポンが昨年9月に稼働させたエチレン工場=米テキサス州フリーポート

 原油の低価格を背景に好業績を謳歌(おうか)してきた日本の化学業界が、米国からの“黒船”来航に身構えている。米国で生産された圧倒的に安いシェールガス由来の「米国発」石油化学製品が、これから中国などへ流入すると予想されているからだ。日本メーカーは市況悪化などで大打撃を受けかねず、業界関係者は固唾をのんでその動向を見守っている。

 「米国でシェール革命が起こっている。石化産業の世界地図は、まさに塗り替えられつつある」

 石油化学工業協会(石化協)の森川宏平会長(昭和電工社長)は、シェール由来の製品が日本に与える影響をそう危惧する。

 シェールとは、堆積岩の一種である頁岩(けつがん)のことだ。頁岩中のごく微細な隙間に閉じ込められている天然ガス成分はシェールガスと呼ばれ、米国が輸出しようとしている石化製品はその中に含まれるエタンガスから作る。石化製品の基礎原料であるエチレンの製造コストは、ナフサ(粗製ガソリン)から作る場合の数分の1ともいわれる。

 原油価格低迷の影響で遅れていたシェールガスの生産が本格化すると、まず米ダウ・デュポンが2017年9月にテキサス州でエチレンとポリエチレンの工場を稼働。米エクソンモービルなども続いた。その生産能力は、ダウ・デュポンのエチレンだけで年150万トンと、日本全体の生産量(17年で約653万トン)の4分の1近くに達する。

 こうした動きを受けて、米国ではエチレン価格が急落。スポット価格は直近で1トン=300ドル台と、年初からみても約5割下落した。アジア価格が1300ドル程度なのを考えると、いかに安いかが分かる。

 エチレンは気体で、輸送に専用の船舶などが必要なため、すぐに海外へ広がるわけではない。だがエチレンから作る誘導品のポリエチレンはペレットと呼ばれる粒状で、輸送が比較的簡単とされる。現状では今年後半から19年にかけて輸出が本格的に始まり、経済成長の続く中国などへ流れ込むとみられている。

 中国の石化製品の需要は底堅く、供給不足は今後数年は続く見通しだ。しかし景気が減速するなどして吸収しきれなくなれば、同国に供給されていた他のアジアの製品が押し出され、日本国内に流入しかねない。たとえ流入しなくても、アジア価格が急落すれば、日本メーカーは大きな影響を受けることになる。

 日本の石化業界は、過去最長レベルの好況を“満喫”している。石化協によると、国内エチレン生産設備はフル稼働状態が続き、稼働率は15年11月から今年6月まで32カ月連続で実質95%超となった。7月は93%とやや落としたものの、火災事故や不具合などの一時的要因が重なったためで、絶好調に変わりはない。国内外の堅調な需要に加え、人口減による国内市場縮小を見据えて10年以降に設備が3基減らされたことも、需給を引き締めている。

 このため、流入で需給が多少緩んだとしても、ある程度は持ちこたえられそうだ。三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長はシェール由来製品の影響について「当初考えていたドラスティックなところまではいかない感じだ」と話す。

 むしろシェールの存在が原油価格の上値を抑え、石化業界は原料安の恩恵を受けるとの楽観的見方すら存在する。

 だが油断は禁物だ。経済産業省によると、15年時点で2900万トンだった米国のエチレン生産能力は、21年には4000万トンまで増える見通し。中国などでも生産増強計画が進められており、一気に供給過剰へ突き進む可能性がある。

 日本の化学大手は「脱・石化依存」を進め、収益性が高く最終製品により近い“川下”に軸足を移してきたため、かつてほど石化事業が売上高に占めるウエートは高くない。とはいえ、環境に恵まれた石化事業が利益貢献しているのも事実。ただでさえ米中貿易摩擦が激しくなっているだけに、ある大手の幹部は「先行きはどんどん不透明になっている。気は抜けない」と警戒心をあらわにする。(経済本部 井田通人)