「神対応」が「死に神対応」へと豹変する中国の途上国援助 対中債務一斉繰り延べで世界は平和になる

野口裕之の軍事情勢
北京の人民大会堂で開かれた「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合で演説する中国の習近平国家主席=3日(共同)

 クロをシロと堂々と言える「中国人になりたい」と、たまに危ない妄想をし、慌てて我に返る。中国外務省の女性報道官が8月30日に発した日本政府に対する「お怒りの声」を聴いた時もそうだった。中国当局が、北京での秋葉剛男外務事務次官と王毅国務委員兼外相との会談に際し、産経新聞記者の代表取材への参加を拒否したため日本政府は抗議したのだが、「お怒りの声」はこの抗議に対して発せられた。いわく-

 「こうした『理不尽』な抗議は受け入れられない」

 「メディアが駐在国の法律を守り、その政府と協力を進め、駐在国の状況について『客観的』かつ『公正』に報道するよう教育しなければならない」

 「これは『基本的常識』だ」

 日本と中国の間では『理不尽』も『客観的』も『公正』も『基本的常識』も、意味が正反対であるようだ。産経新聞の取材を拒否した理由に関しては具体的報道内容に言及せず「取材者の人数を制限し、取材活動の安全な進行を保証する」と、判読不能な釈明を行った。北京駐在の日本メディア全体が代表取材をボイコットした経緯には、こんな“疑念”を口にした。

 「各メディアの意思によるものなのか。それとも何らかの圧力をかけられたのか」

 「報道統制」が行われている独裁国家の当局者ならではの“疑念”に接し、「報道の自由」が保証されている日本のメディア関係者としては心が痛んだ。産経新聞の抗議にも「『自らの過ち』を棚に上げて他人をとがめる芝居」と非難したが、『自らの過ち』とは「真実を報道した」ことらしい。

 ともあれ、自らは常に正しく、説教を垂れる中国当局者の発言を聴いていると、国際社会の軽蔑や嫌悪など意に介していなさそう。鉄の仮面をかぶり「中華風の追い風」に身を任せていれば、反り返っていても背後にひっくり返りはしないと固く信じている。ストレスがなさそうで、「中国人になりたい」との危ない妄想はこの辺りから生じる。

ダブルスタンダードがスタンダードの中国

 従って、ダブルスタンダードが「スタンダード」。件の女性報道官は、米トランプ政権が追加関税を課す22兆円相当の中国製品リストを公表後の7月11日、定例記者会見でニコリともせず言い切った。

 「典型的な貿易覇権主義だ。中国は正当で合法的な権益を断固守る。一国主義と多国間主義、保護主義と自由貿易、強権とルールの戦いだ。中国は国際社会と共に歴史の正しい側に立ち、多角的貿易体制とルールを守る」

 「各国経済が相互依存し、盛衰を共にしている。時代遅れの『ゼロサムゲーム思考』を固守し、貿易戦争を仕掛けるのなら勝者はいない」

 ここまでしれっと言われると腹が立つどころか、ヘソで沸かした茶で飲茶が楽しめる。報道官の対米批判が全て的外れとは言わないが、中国に批判する資格はゼロ。中国の経済・貿易・投資・金融戦略は自己利益しか眼中にない『ゼロサムゲーム思考』そのもの。中華人民共和国の「中華」とは「世界の中心」ではなく「自己中心」を意味するのだ。

 ご存じだろうか。中国は「途上国」として排ガス規制を逃れつつ、世界銀行より総額4兆円近くの「途上国援助」を受け取り、「計画が継続中」と称していまだに「途上国援助」を搾り取っている。

 《気候変動問題》での変身も見事だった。気候変動への取り組みが国際社会の新たな課題として浮上し始めた頃、中国政府は「地球温暖化は産業革命以来、先進国が冒してきた問題で、温暖化ガスの排出義務は先進諸国が負わなければならない」と主張していた。

 国連常任理事国にして公害大国たる中国の無責任な姿勢にわが国は、先進国だけが温暖化ガスの排出義務を負う合意《京都議定書=1997年》の延長が議論された2010年の《気候変動枠組条約締約国会議》で、「中国を含む全主要排出国が参加する新たな枠組みを創設しない限り、実効性の伴う地球温暖化防止は不可能」と訴えた。この時、中国は外交の公式舞台でわが国を口汚く、執拗に罵った。ところが、米トランプ政権が地球温暖化問題解決に消極的とみると一転。今や中国は、国際社会における温暖化防止の「守護神」を装う。

一帯一路とは現代版「植民地主義」

 途中で「神対応」が「死に神対応」へと豹変する現代版シルクロード=巨大経済圏構想《一帯一路》は、もっとおっかない。途上国や貧困国を相手に、最初は「大型インフラの整備をお手伝いしましょう」と「互恵」を看板に仕立てて、篤志家の如き神々しさをもって近づく。

 だが、設計・工事発注先や機器・機材購入先は中国企業限定。労働者は中国から引き連れ、援助額の10倍から十数倍もの収益を自国へと環流させている。ドイツ貿易・投資振興機関の2月のリポートも《一帯一路は不透明な法的枠組みで、政治的不安定国に狙いを付けている。中国国営銀行が後押しするプロジェクトの8割で中国企業が恩恵を受けた》と警告した。

 途上国・貧困国が中国の狡猾なカラクリ=「ヒモ付き」に気付いた時は手遅れで、高利を支払う羽目に。返済不能に陥ると「待ってました」とばかりに国土の一部=特区や港湾を巻き上げる。

 実際、スリランカが中国資本を借りて建設した港は経営に行き詰まり中国は昨年、借入金とバーターで99年間の運営権を取得。港は、今後1世紀の長きにわたり「中国の飛び地」と化す。英国は香港を99年租借した後、条約通りに返還したが、中国が契約を守るかは「?」。

 インド洋の島国モルディブも1600億~2200億円もの大金を借りたが返済が滞り、2019年中に中国への領土割譲が待ち受ける。モルディブを構成する島々の多くが地球温暖化→海面上昇で海面下に沈む危機にひんしている苦境も、中国の食指を動かした。南シナ海の岩礁を違法に埋め立て人工海上軍事基地群を造成し続ける「経験と実績」を、モルディブでも役立てるはず。

 パキスタンもギリシャも「債務のワナ」にはまり、港湾の運営権を奪われた。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領はこう看破した。

 「帯と路が通過する国々を属国化し、覇権を確立する新手段であってはならない。過去のシルクロードは中国の専有物でも、一方通行でもなかった」

 IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事も自らのファッション同様にセンスのある警鐘を鳴らした。

 「一帯一路で投じられる中華マネーをフリーランチ(ただ飯)とみなすべきではない」

 麻生太郎副総理兼財務相も昨年、麻生節を炸裂させた。

 「(悪徳)サラ金にやられたようなもの」

 現にトンガの対外債務は6割、バヌアツも5割が中国由来。まさに麻生氏の仰せの通りだが、高利貸には「貸し倒れ」という天罰が待ち受ける。中国は運営権の差し押さえや利益を環流させたつもりでも、当の被援助国は「ない袖は振れぬ」ので返済は繰り延べを繰り返す。

 トンガのアキリシ・ポヒヴァ首相は5日の《太平洋諸島フォーラム年次総会》で、太平洋諸国の債務を一括免除する要請を議題にする動きを見せたが、クック諸島やサモアが反対し足並みがそろわなかった。中国が背後で圧力を加えたとの観測が浮上している。

 他方、苦しい台所事情は中国も一緒だ。消費の著しい低迷で内需拡大は絶望的。投資や輸出拡大で経済を牽引してきたが、国内投資は過剰かつ、いびつ、輸出も米中貿易戦争で大苦戦している。資本逃避も激化し、外国からの膨大な資金調達のあおりで債務超過も視野に入った。財政赤字もGDP(国内総生産)の250~300%にのぼる。

 にもかかわらず、中国の“対外援助”は世界第4位の日本(168億ドル)に匹敵する。経済・軍事・政治といった、あらゆる正面で米国に取って代わろうとする野望への「投資」戦略なのは間違いない。同時に、プライドの高さだけは自己抑制できぬ習近平指導部だけに「札ビラで途上国の頬を叩く」金満戦略の恍惚感が忘れられない。

 折しも、アフリカ53カ国の首脳が集結した3~4日の《中国アフリカ協力フォーラム》で、習国家主席は、今後3年間をメドに6兆6千億円の援助をすると発表した。しかも、今年末までに償還期限を迎えながら返済不能の無利息借款に債務免除を認めた。

 フォーラムで習国家主席は「一国主義に反対し、互いの核心的利益を守る姿勢を決意する」「一層緊密な中国アフリカ運命共同体を一緒に築きたい」と甘い言葉を安売りしたが、詰まるところ、一帯一路とは現代版「植民地主義」。確かに、国民党との内戦に勝利した中国共産党は中国成立(1949年)後、アフリカを初の援助対象にし、共産主義を広め、50~60年代の「民族解放闘争」を支えた。71年の国連総会での投票で、アフリカ諸国は中国が台湾より代表権を奪取する原動力となるなど「親中の芽」は年季が入っている。

 けれども、欧州列強の植民地だったアフリカ諸国は覚醒し、中華帝国による「植民地支配」に抵抗すべきだ。筆者は「債務解放闘争」を提案する。中国による借金地獄に苦しむアフリカはじめ全当該国が一斉に債務繰り延べに走れば、中国で進む「財政破綻」に拍車が掛かる。すなわち侵略性を濃厚にする中国の超異常な軍事膨張を鈍化させ、世界平和に資する一大効果を生み出す。世界経済への連鎖を危惧する専門家も多いが、経済は立て直せる。

 あってはならぬが、軍事・経済・政治面で中国が意のままに操る世界秩序が構築された時、人々は過ちに気付く。「かつて、中国の少数民族・言論弾圧は国内にとどまっていたが、今や外国にまで強要する。リーマン・ショックがちっぽけな事象に見える」と。