【クローズアップ科学】戦艦「武蔵」発見者もうなる日本の総合力 深海無人探査レース、来月にも決勝 - 産経ニュース

【クローズアップ科学】戦艦「武蔵」発見者もうなる日本の総合力 深海無人探査レース、来月にも決勝

第2ラウンド進出チームであることを示すトロフィーを持つチーム・クロシオの大木健共同代表=8月2日、神奈川県横須賀市の海洋研究開発機構(松田麻希撮影)
複数の海中ロボットを同時運用するため、駿河湾で実施したシステム統合海域試験=2017年8月(チーム・クロシオ提供)
第1ラウンドの審査で、海中ロボットについて審判団に説明するチーム・クロシオの大木健氏(左端)ら(画像の一部を加工してあります)=2018年1月、東京都目黒区の東京大駒場キャンパス(チーム・クロシオ提供)
 深海を無人ロボットで探査し、海底地図を作製する国際的な競技レースが来月にも、クライマックスを迎える。唯一の日本勢として決勝戦に臨む「チーム・クロシオ」に勝算はあるのか。戦略を探った。
後にも先にもない大規模競技
 海底地図を作る、とてつもない規模の国際レースが開催されるらしい-。2015年の暮れ、海洋研究の関係者に衝撃が走った。
 競技課題は4000メートル級の深海底の地形図作製と写真撮影。人間は海に入らず、自律型の海中ロボット(AUV)を使って行う。賞金総額は700万ドル(約7億8000万円)だ。
 主催する米国の非営利組織「Xプライズ財団」は、科学の発展やイノベーション(技術革新)を加速するため、高額な賞金を懸けたさまざまな競技レースで世界中のチームを競わせている。過去のレースでは日本チーム「HAKUTO(ハクト)」も健闘した月面無人探査が有名だ。
 深海底の探査レースに参加しようと、日本でいち早く動いたのが、海洋研究開発機構の中谷(なかたに)武志氏と大木健氏、東京大のソーントン・ブレア准教授、九州工業大の西田祐也特任助教の若手研究者だった。東大駒場キャンパス(東京都目黒区)に集まり、打ち合わせを重ねた。
 「こんな大会は後にも先にもない」(大木氏)。海洋研究における日本の存在感を示すためにも参加すべきだと、4氏はそれぞれの所属組織で上司らを説得して資金を捻出、少しずつ共に戦うメンバーを増やしていった。
 17年2月、4氏の所属組織のほか、海上技術安全研究所やKDDI総合研究所など7者が共同契約を結び、同4月にはヤマハ発動機が加わって現在のチーム・クロシオが完成した。
異なる文化のロボット同士を“通訳”
 レースは開催発表からわずか1年で技術提案書の提出が締め切られ、参加登録した日米欧などの32チームのうち21チームが書類選考で第1ラウンドに進んだ。日本からは唯一、クロシオが進出を決めた。
 非常に厳しいスケジュールの中でチームが取った戦略は、すでにある技術や機材を統合して総合力を高めることだった。東大と海上技術安全研究所が所有する海中ロボット3機と、三井E&S造船の洋上中継器を同時運用する実験を進めた。
 現在の海洋調査では、有人の支援母船から海中ロボットを投入するのが一般的。母船の代わりに中継器がロボットと通信する方法は、1機ずつのペアで運用する例が少し出てきたという段階だ。
 「複数の海中ロボットを同時運用するだけでもかなりの挑戦」と大木氏は語る。数の問題だけでなく、異なる組織が所有し、それぞれのシステムで運用する機材を一緒に動かす難しさもあった。「全く別の文化で、違う国の言葉を話しているロボット同士を“通訳”しなければならなかった」と振り返る。
 こうした難題を乗り越えることを可能にしたのが、それぞれに得意分野を持つチームメンバの活躍だ。通信技術に強いKDDI、国際レースへの参加ノウハウを蓄積するヤマハ、海中ロボットの運用で多くの人材を輩出する日本海洋事業などに所属する約30人のメンバーが、それぞれの強みを生かす。
 水深2000メートルの海底地図作製を目指す第1ラウンドは当初、プエルトリコ沖で行われる予定だったが、2つのハリケーンで甚大な被害を受けたことで実施が困難に。財団が各チームを訪問し、実験施設で審査する方法に変わった。
 今年1月、東大駒場キャンパスを訪れた審判団の中に、難破船ハンターのデービッド・マーンズ氏の姿もあった。米マイクロソフトの共同創業者で資産家のポール・アレン氏率いる探査チームが、フィリピンに沈んだ旧日本海軍の戦艦「武蔵」を発見した際の重要メンバーだ。
勝利はゴールではない
 クロシオは海中ロボットの動作や取得した地図情報の分析技術などが評価され、第1ラウンドを通過。決勝戦の第2ラウンドに進む9チームに残った。いよいよ実際の海域で、水深4000メートル、広さ500平方キロの海底地図作りに挑む。
 決戦は10~11月。目指すのはもちろん優勝だが、それが最終ゴールではないという。「勝つためにやっているのではなく、参加することで技術力を上げる」(大木氏)。海中ロボットを使った無人オペレーションの実現を加速するのが狙いだ。
 人のつながりも、競技を通じて築き上げた財産。レースに参加した世界中の研究者、技術者が明日の海洋研究を担うコミュニティーを形成していくと、大木氏らは見ている。次世代コミュニティーにしっかりと日本も加わっていきたい-。チームはレースの先を見据えている。(科学部 松田麻希)